抄録
【目的】変形性膝関節症(以下、膝OA)に対する理学療法は一定の効果を示しているが、X線上での関節面変形別に疼痛改善度及び疼痛改善期間を比較した研究は数少ない。臨床的にX線上で骨棘形成が関節裂隙狭小化よりも疼痛と相関があるとする報告があるため、骨棘形成の程度により疼痛改善度とその期間は異なってくることが予測される。そこで今回、A院で膝痛を呈する膝OA患者をX線上で骨棘の程度別に分け治療的介入後の疼痛改善度とその変動がプラトーになる期間を比較検討したのでここに報告する。
【方法】平成18年3月から平成19年4月の期間に膝関節痛を訴え、A院で膝OAと診断された患者32名57膝(男10膝、女47膝、平均年齢71歳)を対象とした。疼痛改善度は10点法で示し、1ヶ月おきに判定した。数値は少なくとも2週間以上その状態が継続されているものとする。そしてその数値の変動がプラトーになる最初の期間を記録した。X線は前後-左右方向から医師により撮影され、所見別に骨棘なし群(21膝)、軽度骨棘あり群(20膝)、中等度骨棘あり群(10膝)、重度骨棘あり群(6膝)の4群に分けた。統計処理方法は、骨棘の程度による4群で疼痛の変動がプラトーに達した改善度を骨棘条件で一元配置分散分析(ノンパラメトリック・Kruskal-wallis検定)を行った。分散分析に有意性が見られた場合、post-hoc検定(sheffe法)を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】疼痛改善度に関して中等度骨棘あり群と重度骨棘あり群間に有意差が認められなかった以外は全ての群間に有意差が認められた。期間に関しては軽度骨棘あり群と中等度骨棘あり群間、中等度骨棘あり群と重度骨棘あり群間に有意差が認められなかった以外は全ての群間に有意差が認められた。
それぞれの中央値は、疼痛改善度では骨棘なし群が9、軽度骨棘あり群が6、中等度骨棘あり群が3、重度骨棘あり群が3であり、期間では骨棘なし群が1ヶ月、軽度骨棘あり群が3ヶ月、中等度骨棘あり群が4ヶ月、重度骨棘あり群が5,5ヶ月であった。
【考察】疼痛改善度が中等度骨棘あり群と重度骨棘あり群間以外には全ての群間に有意差を認めたことから骨棘の程度では中等度骨棘あり群と重度骨棘あり群において疼痛改善度にあまり相違がないことが示唆された。また期間に関しては、骨棘なし群と軽度骨棘あり群・中等度骨棘あり群・重度骨棘あり群間のそれぞれに有意差が認められ、軽度骨棘あり群と中等度骨棘あり群、中等度骨棘あり群と重度骨棘あり群間では有意差が認められなかったことから、中等度骨棘あり群が軽度骨棘あり群または重度骨棘あり群のどちらにも変動する可能性を有していることが示唆された。
以上から、骨棘なしの段階では短期間で十分に疼痛を改善することができる可能性があるため早期に治療を開始することが賢明であり、予防の重要性も示唆する結果となった。