理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 779
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内部障害系理学療法
消化器疾患による開腹術後患者のADL回復状況の検討
下田 志摩大森 圭貢横山 有里池田 登志美岡田 一馬山川 梨絵遠藤 弘司笹 益雄
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キーワード: 消化器疾患, 開腹術後, ADL
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抄録
【はじめに】
医療技術の進歩と高齢社会を背景に,消化器疾患の外科手術の適応が高齢ハイリスク患者へと拡大されつつある.消化器疾患患者では,特有のリスクである貧血,低栄養状態,脱水の存在や開腹術後の疼痛などがADLの阻害因子になると考えられるが,手術後患者のADLに関する報告は少ない.本研究の目的は,消化器疾患による開腹術後患者のADL回復状況について調査することである.
【方法】
対象は,2006年10月~2007年7月まで当院に入院し,消化器疾患により開腹術を行った113名のうち,手術後に死亡した5名を除いた108名とした.対象者の診療記録より,年齢,性別,診断名,合併症,主な治療内容,手術名,手術時間,手術の緊急度,挿管日数,離床病日,手術前の屋内移動能力に回復した病日,入院前と退院時の移動能力,在院日数,理学療法施行の有無を後方視的に調査した.分析は,Mann-WhitneyのU検定,Pearsonの相関係数を用い,統計学的有意水準はP≦0.05とした.
【結果】
対象者の年齢は69.5±10.7歳で,待機手術患者は86名,緊急手術患者は22名だった.離床病日,手術前の屋内移動能力に回復した病日,在院日数のそれぞれの中央値は1日,2日,23日だった.離床に関しては,第3病日以降に遅延した患者は16名(15%)で,その主な理由は,挿管中,発熱,せん妄,痛みによる拒否だった.移動能力に関しては,手術前の屋内移動能力に回復するのに7日以上かかった患者は23名(21%)であり,その主な理由は,挿管中,せん妄や意欲の低下による廃用だった.うち,5名(5%)は入院前の移動能力に回復しなかった.合併症に関しては,せん妄発症者は26名(24%)で,年齢が高く,移動能力の回復が有意に遅かった.肺合併症発症者は,挿管日数が長く,離床病日,移動能力の回復病日が有意に遅かった.縫合部不全や縫合部出血は,離床や移動能力に影響はないものの,在院日数は延長する傾向にあった.手術前の移動能力への回復病日,在院日数は挿管日数,離床病日と有意な正相関があった(r=0.60,r=0.63).理学療法施行患者は13名(12%)で,目的は,抜管援助・呼吸リハが4名,ADL改善が9名だった.特徴は,既往に脳血管疾患があり,緊急手術後で,肺合併症,せん妄を発症した患者が多く,挿管日数,移動能力の回復病日,在院日数が長かった.
【考察】
当院における消化器疾患による開腹術後患者の多くは理学療法を施行しないが,離床までの日数,手術後のADL回復は早く,クリニカルパスの導入や病棟看護師による離床の促進の結果と考える.一方,理学療法施行者は,合併症を発症し,屋内移動能力回復が遅い患者が多い.早期の抜管・離床は,移動能力の改善や在院日数の短縮と関係があることから,抜管・離床に対する理学療法士の関与の重要性が示唆された.
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© 2008 日本理学療法士協会
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