抄録
【目的】
近年、胸腔鏡や腹腔鏡は侵襲が低く、術後早期に活動性の早期回復が可能とされている。一方で、当院では従来の開腹下での手術に対して、硬膜外PCA下での周術期リハビリテーションに取り組み、術後の身体機能の早期回復に努めてきた。そこで今回、腹腔鏡を用いた低侵襲手術と従来の開腹下での手術における身体機能の回復を比較・検討したので報告する。
【方法】
対象は2005年12月から2007年11月まで当院にて腹腔鏡補助下胃部分切除術、開腹下胃部分切除術、開腹下胃全摘術のいずれかを単独で施行され、周術期リハビリテーションを実施した75例のうち、術後経時的に6分間歩行試験を測定できた63例を対象とした。腹腔鏡補助下胃部分切除術10例(67.0±9.3歳、男性4例、女性6例)、開腹下胃部分切除術37例(64.4±9.7歳、男性29例、女性8例)、開腹下胃全摘術16例(69.7±8.2歳、男性14例、女性2例)であった。開腹下手術においては可能な限り硬膜外PCAを併用した。3群間で術後歩行開始日数、術後在院日数について比較した。さらに6分間歩行試験において、術前値を100%とした6分間歩行距離の回復率(以下、r-6MWD)を算出し、その経過を3群間で比較した。
【結果】
歩行開始日数は腹腔鏡補助下胃部分切除術1.5±0.7日、開腹下胃部分切除術1.8±0.5日、開腹下胃全摘術1.9±0.8日、術後在院日数は腹腔鏡補助下胃部分切除術16.9±5.1日、開腹下胃部分切除術20.1±6.5日、開腹下胃全摘術22.1±10.2日であり、有意差は認めなかった。術後7日目のr-6MWDは腹腔鏡補助下胃部分切除術73.8±18.3%、開腹下胃部分切除術76.3±15.3%、開腹下胃全摘術74.2±11.2%であり、有意差を認めなかった。術後7日目以内にr-6MWDが90%以上に達したのは腹腔鏡補助下胃部分切除術2/10例(20.0%)、開腹下胃部分切除術6/37例(16.2%)、開腹下胃全摘術2/16例(12.5%)であり、術後14日目以内では腹腔鏡補助下胃部分切除術5/10例(50.0%)、開腹下胃部分切除術19/37例(51.4%)、開腹下胃全摘術7/16例(43.8%)であった。
【考察】
術後歩行開始日数は有意差を認めなかったものの、低侵襲であるほど早い傾向があった。術後在院日数も有意差を認めなかったものの、低侵襲であるほど短い傾向があったが、これに関しては主治医の主観や後療法の有無などに左右され得るため一概には述べられない。6分間歩行距離の回復は各術式に有意差を認めなかった。これに関しては3群間の症例数にばらつきがあるため更に検討が必要である。しかし今回の検討から、身体機能の回復に術式の違いによる差は認められず、疼痛管理などのその他の要因も影響を及ぼしている可能性が示唆された。