理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1220
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内部障害系理学療法
がん終末期
在宅への想いに応えるために理学療法士ができたこと
大段 裕樹仙石 英嗣菅原 修
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キーワード: がん終末期, 理学療法士, ADL
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抄録
【はじめに】
近年、緩和ケア病棟の増加や在宅ホスピスを推進する動きなど、その人らしい終末期を過ごすということに関心が高まっている。しかし、当院の位置する北海道東部のオホーツク地方に緩和ケア病棟はなく、また訪問診療などの体制も十分とは言えず、終末期を病院の一般病棟で過ごされる人が多い。
今回、当院に入院し全身状態が悪化しながらも、最期まで自宅で過ごしたいという想いを持ち続け、実現できるよう取り組んだ症例に対し、理学療法士としての関わりを報告する。
【症例】
60歳代、男性。前立腺癌、多発骨転移、肺転移。妻と2人暮らし。家族と一緒に過ごしたいという希望あり。
平成18年12月に上記診断受ける。内分泌療法実施後、自宅にて生活していた。翌年5月、尿路感染により再入院となる。この時点で前立腺癌の積極的な治療は困難と判断され対症療法中心の治療方針となる。その後、膀胱浸潤や骨転移の増大により背部に疼痛が出現しADLが低下したため理学療法(以下PT)開始となる。PT開始時、歩行には歩行器が必要で、疼痛Visual analogue scale(以下VAS)で80~90の運動時痛あり体動が難しい状態であった。しかし、疼痛の日内変動で状態の少しでも良い時に、より疼痛の少ない肢位を評価しながら運動を行うことにより、全身状態が日々悪化する中でも杖歩行が可能となった。同時に自宅生活へ向けて家族への介助方法等の指導も行った。そして、適切な疼痛コントロールにより運動時VASで20程度まで改善、外泊を何度か実施し、自宅で家族と一緒に過ごすことが実現した。その後、退院日が決定するも疼痛が再び増強し退院は中止となるが、本人の希望によりもう一度外泊し、その数日後、永眠される。
【考察】
がん終末期患者のリハビリテーションの目的を辻は「患者の要求を尊重しながら、身体的、精神的、社会的にもQOLの高い生活を送れるようにする」とし、その患者にとってできる限り可能な最高のADLを実現することが大切であると述べている。本症例でも、自宅で過ごしたいという想いを尊重し、全身状態が悪化し活動量が低下した状況でも可能な限りADLを向上できるようにPTを実施した。その結果、身体活動の低下よって起こる廃用を最小限にすることができた。そのことが、できる限り可能なADLを実現させ、自宅で過ごすことを可能にした要因の一つではないかと考えられる。
本症例を通し、がん終末期にPTの介入が、その人らしく過ごすということを実現させるための手段の一つとなることが改めて示唆された。今後も、終末期に患者が想いを実現できるよう、理学療法士が果たす役割を検討していくことが必要であると考えられる。


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© 2008 日本理学療法士協会
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