抄録
【目的】肺癌外科術後患者のリハビリテーションを行う中で、喫煙歴のある患者では術後早期において痰の貯留量の増加や排痰困難な症例をしばしば経験する。しかし、喫煙歴の有無が周術期の呼吸機能や運動耐容能の経過にどのように影響するのかを明らかにした報告は少ない。本研究の目的は、肺癌外科術後患者において喫煙歴の有無が呼吸機能および運動耐容能の術後経過に与える影響を検討することである。
【対象と方法】対象は肺癌と診断され外科治療を施行された症例のうち術前から術後2週までの評価が可能であった40例とした。内訳は喫煙群27例(男性24例・女性3例、年齢64.5±9.3歳、Brinkman Index1379.1±735.0)、非喫煙群13例(男性4例・女性9例、年齢64.4±7.0歳)であった。各対象者には本研究の主旨および方法に関する説明を十分に行い、同意を得た。測定項目は、最大吸気圧(PImax)と最大呼気圧(PEmax)、最大呼気流速(PF)と咳嗽時最大呼気流速(PCF)、流量型Incentive spirometerの最大吸気量(IS)、6分間歩行距離(6MWD)とした。測定時期は術前、1週、2週とした。さらに、各測定項目の術後1週と2週の回復率(術後/術前×100)をそれぞれ算出した。各時期の測定項目の比較には反復測定一元配置分散分析およびScheffe’s法による多重比較検定、喫煙群と非喫煙群の回復率の比較には対応のないt検定を用い、有意水準を5%未満とした。
【結果】喫煙群では、PCFは術前414.1±105.8L/min、術後1週276.9±91.0 L/min、術後2週337.6±94.2L/min、6MWDは術前483.1±97.9m、術後1週407.1±99.2m、術後2週427.1±102.1mであり、PCFと6MWDは術前と比較して術後1週で有意に低い値を示した。非喫煙群では、PCFは術前334.6±118.2 L/min、術後1週289.2±80.4L/min、術後2週 313.3±116.6L/min、6MWDは術前492.2±50.0m、術後1週459.6±59.6m、術後2週480.4±55.3mであり、PCFと6MWDは各時期において有意な差は認められなかった。PCFの回復率は、術後1週において喫煙群67.9%、非喫煙群96.6%であり、喫煙群が有意に低かったが、術後2週では有意な差は認められなかった。6MWDの回復率は、術後1週において喫煙群81.4%、非喫煙群93.5%であり、喫煙群が有意に低かったが、術後2週では有意な差は認められなかった。ISの回復率は、術後2週において喫煙群72.4%、非喫煙群87.6%であり喫煙群が有意に低かった。PImax、PEmax、PFの各時期での回復率は喫煙群と非喫煙群の間に有意な差を認めなかった。
【考察】喫煙歴の有無は呼吸筋力や呼気流速に関して術後の回復経過には影響を与えないことが示された。しかし、6MWDと咳嗽能力は喫煙群では術後1週で回復が遅れることが示され、肺炎や無気肺などの二次的合併症の予防に十分配慮する必要性があると考えられた。