抄録
【目的】当院では、呼吸器外科にて肺癌と診断され外科的治療の適応となった全患者に術前からの患者教育が合併症予防に有効であるとし、術前からの理学療法を実施し、パスによる術後早期離床に取り組んでいる。そこで今回、当院における術後の離床状況、術後合併症の有無を調査検討したので報告する。
【方法】2006年4月より2007年3月までに呼吸器外科において開胸(胸腔鏡補助下も含む)での肺切除手術を施行し、理学療法を処方された59例(男性38例、女性21例,平均年齢65.9±10.2歳)を対象とした。切除部位内訳は、右上葉22名、右中葉6名、右下葉7名、左上葉12名、左下葉7名、両部分切除2名、部分切除3名であった。対象者には術前術後の理学療法を施行し、術前理学療法日数、術後在院日数、立位歩行開始日等、離床状況と合併症の有無等、ドレーン留置日数、術前肺機能検査値、喫煙指数等を調査検討した。
【結果】全症例が術後1日目で立位施行しそのうち51例(86.4%)が同日に室内歩行を獲得していた。また1日目に歩行困難だった8例(13.6%)の内訳は、吐き気等5例、認知症による離床拒否、ルートによる歩行意欲の低下など精神的な理由が2例、貧血1例であり、2日目には全症例室内歩行可能となった(室内歩行獲得日数1.1±0.3日)。術前肺機能検査においては肺活量2.9±0.8L、%肺活量103.5±15.7%、1秒率76.8±9.9%であり、閉塞性障害の傾向があった。喫煙指数は497.5±635.0(400以上)であった。次に、術前の理学療法処方の平均日数は14.6±10.2日、術後在院日数は10.6±11.4日であり、ドレーン留置日数は7.3±9.8日であった。また何らかの術後合併症が確認されたのは15例(25.4%)であり、その内訳は、肺炎・無気肺2例、乳び胸3例、気漏4例、不整脈5例、貧血1例であった。術後合併症群ではなし群に比べ年齢(70.4±8.7vs 64.6±10.3歳,p<0.05)、術後在院日数(21.7±19.9vs 7.2±2.2日,p<0.02)、ドレーン留置日数(15.1±18.2 vs 4.8±1.8日,p<0.05)において有意に高く、術前%肺活量(95.6±15.1 vs106.0±15.3L,p<0.03)では有意に低い値を示した。なお、術後合併症群で術後在院日数に影響したのは6例(全体の10.2%)であった。
【まとめ】当院では術前後の理学療法を施行しているが、術後合併症発生要因は単一ではなく、理学療法の効果を判定することは難しい。しかし、術後合併症のリスクを把握し、より効果的な理学療法を提供できる体制を目指し、理学療法介入の有効性のエビデンスの構築を今後の目標として取り組んでいきたい。