抄録
【目的】
後期高齢者の参加が多かった当市の運動器向上に関する特定高齢者施策について,歩行機能評価と一事例をとおし,特定高齢者施策の今後について検討する。
【事業概要】
1 対象者の選定:国の定める特定高齢者の決定方法に基づく
2 プログラム:本市の軽度介護保険認定者の多くは膝等の関節系疾患が原因であることから,床上臥位や椅子姿勢での自体重による筋力トレーニングを中心に行った。参加期間は6ヶ月を基準とし,6ヶ月後の状況により,12ヶ月まで延長を可能としている。実施頻度は1週間に1回。ホームエクササイズの指導も行い,可能な限り実施してもらった。
3 参加者属性:平成18年度の本事業参加者は8人。そのうちプログラムを最後まで修了した者は6人。内訳は男性1人,女性5人。平均年齢は79.5歳であり1名を除き全て後期高齢者であった。参加期間は6ヶ月から12ヶ月。平均8.6ヶ月。
4 評価項目:握力、長座体前屈,開眼片足立ち,5m歩行,timed up and go test(以下TUGという)の5項目を用いた。
【方法】
日常生活の歩行機能に注目し,5m歩行とTUGの変化と,機能低下以前に地区活動を活発に行っていた一事例の生活状況の変化を検討した。
【結果】
1 歩行機能:5m歩行の初期平均は4.63秒(最高4.32秒,最低6.08秒),終了時平均は4.41秒(最高3.3秒,最低5.4秒)。TUGの初期平均9.65秒(最高7.41秒,最低11.97秒),終了時平均は平均10.46秒(最高7.22秒,最低12.85秒)であった。
2 事例:軽度左麻痺の73歳男性。今年度本事業利用期間は最長の11ヶ月。機能低下が認められる以前は地区活動等でリーダー的な役割をしていた。機能低下により社会参加の機会が減少。他の事業の参加を促すも参加に至らず。しかし,身体機能の向上に意欲を持ち,本事業に参加。プログラム終了時,身体機能は維持であったが,身体機能以外の変化として,姿勢変換,起居動作・歩行の安定,表情の改善,会話の増加,社会参加への意欲に変化が認められた。本事業終了後は他の事業へ参加につながった。
【考察】
5m歩行,TUGは維持に留まったが,参加者の初期評価及び年齢を考慮しても維持が認められたことは、一つの事業効果と考えられる。
今回は歩行機能と一事例のみの検討だが,本事業のように,後期高齢者が多く参加する特定高齢者施策の場合,数値改善のみならず生活の改善を目標に,事業評価をする必要があると考えられた。特に,本事例のような場合,運動を媒体に生活自体への働きかけの可能性があると思われるが,事業終了後の生活習慣,社会性の維持への働きかけの施策化が課題と考えられる。近隣自治体でも特定高齢者施策終了者に対する明確な施策はとられておらず,プログラム終了後の施策の構築が特定高齢者施策の一つの課題と考える。