理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 752
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生活環境支援系理学療法
地域在住高齢者の孤独感と精神・身体機能および活動能力との関係
廣島 栄司飯島 節
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抄録

【目的】高齢者の孤独感に関する調査は国内外において数多く実施されている.その結果,高齢者はさまざまな原因により孤独に陥りやすく,そのことがうつや自殺にも関連しうることが指摘されている.一方,孤独感と精神・身体機能や活動能力との間にどのような関連があるのかを明らかにした報告は少ない.本研究の目的は孤独感と精神・身体機能および活動能力との関係を明らかにすることである.
【対象および方法】都内A区在住で,外出機会のある65歳以上の高齢者を対象とした.いずれも認知機能の障害がなく,言語的コミュニケーションが可能な者とした.身体機能の条件は歩行動作が可能な者とした.孤独感の測定は改訂版UCLA孤独感尺度短縮版を参考に高齢者にも回答しやすく直した4項目からなる新孤独感尺度(以下,新尺度)(得点範囲4-16点)を用い,1人ずつ回答を求めた.精神機能の測定はMMSE日本語版とうつの評価尺度であるGDS5日本語版を使用した.身体機能は握力と膝伸展筋力およびバランス能力を測定した.握力の測定はデジタル握力計を使用し,アニマ社製等尺性筋力測定装置を用いて膝伸展筋力を測定した.バランス能力は森尾らが開発した伸縮可能な指示棒を用いたModified Functional Reach Test(以下,M-FRT)によって評価した.活動能力の測定はBarthel Index(以下,BI)と老研式活動能力指標を用いた.握力と膝伸展筋力およびM-FRTは複数回の計測を経て成績の良い値を採用した.統計処理は目的変数を新尺度による孤独感得点とし,説明変数をMMSE,GDS5,BI,老研式活動能力指標,握力,膝伸展筋力,M-FRTとして重回帰分析を実施した.
【結果】対象者43名(男性18名,女性25名)の平均年齢は78.0歳であった.BIは平均91.0点,老研式活動能力指標は平均8.7点で,全体的に比較的自立度の高い者が多かった.精神・身体機能および活動能力のうち,新尺度得点との間に有意な影響が認められた項目はMMSE(p<0.01)とGDS5(p<0.05)であり,認知機能が高くうつ傾向が強いほど孤独感が強いことが示された.MMSEとGDS5が孤独感に及ぼす影響の向きは同一であり,GDS5よりもMMSEのほうが孤独感に与える影響は大きかった.孤独感と身体機能および活動能力との間に因果関係は認められなかった.
【考察及びまとめ】認知機能が高い者及びうつ的傾向を示す者は孤独感が強いことが明らかとなった.一方,身体機能および活動能力と孤独感との間の因果関係を明らかにすることはできなかった.今回の対象者は比較的自立度の高い高齢者に偏っていたので,今後は社会的な活動性の低い閉じこもり高齢者などを対象に孤独感と身体機能および活動能力の関係について調査することを課題としたい.

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© 2008 日本理学療法士協会
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