抄録
【目的】社会構造の変化に伴い、リハビリテーションの果たす役割は大きくなり、訪問リハビリテーション・疾病・介護予防など、近年では予防から生活の再建までという保健・福祉分野での活動が求められている。しかし、専門職の約80%は医療施設に勤務しており、ニーズの高い介護系分野では人材の確保に難渋しているのが現状で、社会構造の変化に対応する専門職の育成は急務である。したがって本研究の目的は、リハビリテーション専門職を志す学生の就業志望に影響を与える因子を明確にすることである。中でも今回は、少子高齢化・核家族化という社会構造の変化が著しい居住環境の中でも三世代同居経験という観点から分析・検討を行った。
【方法】本校理学・作業療法学科1年生76名に対し、就業志望度と居住環境に関するアンケート調査を対象者の同意を得た後、質問紙法にて実施した。就業志望度については線分10cmのVisual Analogue Scale(視覚的アナログスケール、以下VAS)を用い、卒業後の就職先を「絶対に病院などの医療施設」を0、「絶対に老人保健施設などの介護系施設」を10とし、病院と介護系施設どちらに気持ちが傾いているかというVASを就業志望度として指数化した。居住環境については三世代同居経験の有無、同居期間について調査を実施した。同居経験と就業志望度の関連性については、同居経験なしから5年未満を「同居経験なし群」(n=48)、同居経験5年以上を「同居経験あり群」(n=28)に分類し比較検討を行った。なお統計処理は両群の就業志望度をt-testを用いて分析し、危険率5%未満を有意な差とした。
【結果】学生の就業志望度は「同居経験なし群」3.14±1.85、「同居経験あり群」4.22±2.55であり、「同居経験なし群」に比し「同居経験あり群」が有意に高いという結果が得られた。(p<0.05)
【考察】今回の結果では、「同居経験なし群」に比し「同居経験あり群」でより高値を示したことから、三世代同居経験の有無が就業志望度に何らかの影響を与えていることが考えられた。佐々木らによれば三世代同居は孫の社交性や順応的な性格形成に影響を与えるとされている。このことは、「同居経験あり群」では社交性の高さから生活ベースで、人との接触度がより高い介護系施設に気持ちが傾いた要因であると推察される。しかし、両群の指数は中間の5を下回っており、「同居経験あり群」でも必ずしも高いとは言えず、介護系施設を志望するには加えて何らかの要因が関与していると考えられる。今回は臨床実習を実施していない1年生を対象としたため、今後はカリキュラムや実習などの学内教育因子、学外因子として地域性や環境因子などの影響を分析することが課題とされた。