抄録
【目的】理学療法士の卒前教育における臨床実習の意義は大きい.しかし、臨床実習施設及び実習指導者(以下SV)が相対的に不足しており、臨床現場の制度的変化や患者の権利を尊重する傾向が強く、学生が経験できる症例数は限られている.このような背景の中で有効な臨床経験をさせるために、我々は学生二人で症例を経験する二人型実習(以下ペア実習)を実施している.今回は過去の問題を改善しペア実習体制を継続した2回目の検証を目的に本研究を行った. 【対象】平成20年4月より10月まで同法人のS及びF病院にて最終学年8週間の総合臨床実習を行った22名(男16名、女6名)の学生を対象とした.そして14名(男8名、女6名)をペア実習とし、8名(全員男)は一人で症例を経験する従来型実習(以下対照群)とした. 【方法】実習体制はペア実習をSV対学生=2対2(主な症例経験)と1対1の混合で実施し、対照群はすべてをSV対学生=1対1で実施した.実習評価は終了時にSV・巡回教員・学生それぞれが行い、その項目の実習成果と変化量を点数化し効果判定とした.また、実習終了直後に学生より得たアンケート調査を分析し合わせて検討した.なお、対象学生には事前に実習評価とアンケートについて、実習体制の改善及び学会報告目的で使用することを文書及び口頭で説明し了解を得た. 【結果】1)実習成果、両群の評価得点の平均値はSV(ペア86.4±5.5点、対照77.6±10.8)と学生(ペア77.9±9.2点、対照70.1±10.6点)のその差は有意(P<0.05)であった.教員(ペア82.3±10.4点、対照73.8±12.4点)のその差は傾向(P<0.1)があった.また、三者間の相関関係はペア実習でSV対教員(r=0.66)、SV対学生(r=0.61)、教員対学生(r=0.80)の有意(P<0.05)な関係が認められた.しかし対照群では教員対学生(r=0.77)のみ有意(P<0.05)な関係であった.2)変化量、両群の変化量の平均値は教員(ペア27.9±6.3点、対照22.3±6.8点)のその差は有意(P<0.05)であったが、SV及び学生のその差は認められなかった.また、三者間の相関関係は両群共に全て認められなかった.3)アンケート結果、ペア実習では時間の使い方、評価過程、治療過程等が対照群に比較して良い感想を示していた.また、二人での協議に長時間を費やし、ストレスがあると64%が示していたが、事前の練習も二人ででき、対症例の前では過程が順調に進むと93%の学生が良い感想を示していた. 【考察】実習成果よりペア実習では三者共に効果を認め、三者の評価得点に相関も認め偏りのない目標設定・実習評価に近づいているものと思えた.アンケートからも実習体制についてペア実習では最終的にはペアの存在を良い因子に上げており、効果の影響として強いことを示していた.本方法は目標設定・実習評価に課題は残すが、効率的で効果的な方法であると考えられた.