理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-027
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理学療法基礎系
音叉を用いた振動覚検査による転倒予測の有用性
―6ヵ月間の前向き研究による検討―
吉川 義之福林 秀幸高尾 篤竹内 真松田 一浩安川 達哉梶田 博之杉元 雅晴
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キーワード: 振動覚, 音叉, 転倒
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抄録

【はじめに】
感覚検査は臨床において重要な検査である.しかし,運動機能検査に比べ実施が少ない現状にある.また,感覚障害はバランス障害や歩行能力との関連性が報告されているが,運動機能検査に比べ転倒への影響が少ないとされている.これまで我々は,簡便に行える感覚検査として,音叉を用いた振動覚検査(以下,振動覚検査)に着目し,転倒との関連性を後ろ向き研究により報告してきた.本研究では,前向き研究から振動覚検査が,転倒スクリーニング検査として有用性を検討した.

【方法】
対象は,認知症ならびに中枢性疾患を有する者を除外した,歩行が可能な当院外来患者,併設の通所リハビリテーション利用者70名のうち,6ヵ月間追跡が可能であった62名(男性28名,女性34名,平均年齢77.4±5.3歳)とした.なお,対象者には研究の内容を説明し,同意を得た.方法は,振動覚検査とTimed “Up & Go” Test,10m自由歩行時間,Modified - Functional Reach Testの4項目を実施した.振動覚検査は,叩打する強さによって振動の強さにばらつきが出現するため音叉に改良を加え,振動を感じ続ける時間(以下,振動感知時間)を測定した.各々の検査は別々のセラピストが担当し,先入観に基づく測定バイアスを排除した.転倒については測定日より6ヶ月間追跡し,対象者の通院および利用日に転倒の有無を確認し,発生状況を記録した.
測定後6ヶ月間の転倒の有無により,転倒群と非転倒群に分けMann-WhitneyのU検定において各検査結果の比較を行った.各検査の比較は,Receiver-Operating-Characteristic(以下,ROC)曲線の曲線下面積を求め比較した.振動感知時間においてはカットオフ値を求め正答率を算出した.

【結果と考察】
測定後6ヶ月間に転倒した対象者は22名(転倒率:35.5%)であった.転倒群と非転倒群の比較では,すべての検査において非転倒群の成績が有意に優れていた.この結果から,振動覚検査は,今回実施した運動機能検査と同様に転倒を予測することが可能であると示唆された.ROC曲線の曲線下面積の比較では,振動覚検査が最大値を示し0.83であった.振動感知時間のカットオフ値は5.65秒であり,感度は86%,特異度は68%,正答率は74%と良好であった.これらの結果から,運動機能検査に加え振動覚検査を実施することで,より徹底した転倒リスク管理が可能になると考えられ,振動覚検査は転倒スクリーニング検査として有用であることが示唆された.また,振動覚検査は簡便であり,数値化できるため客観的な指標になり得た.従って,臨床場面において有用な検査方法であると考えられる.

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© 2009 日本理学療法士協会
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