理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-032
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理学療法基礎系
ワーキングメモリと運動機能の関連性について
野原 慎二星野 敏行
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抄録

【目的】日常生活において我々は、周囲環境からもたらされる多種多様な情報の中から必要なものを選択し、同時並列的に情報の処理と保持を行っている.この機能に関与しているのがワーキングメモリと呼ばれる概念であり、その特性は二重課題法(dual task methods)により検証されている.また近年、転倒要因として注意機能・遂行機能が注目され、姿勢制御や動作等の運動課題に認知課題を加えた二重課題が、転倒リスクに対するスクリーニングやその介入手段として報告されている.しかしながら、このほとんどは運動課題の結果からの見解であり、ワーキングメモリ等の情報処理の側面からの見解は散見される程度である.更に、加えられる認知課題も計算課題や語想起課題等様々であり、他の報告と比較検討する際の一定の指標とは成り難い.そこで本研究ではワーキングメモリ容量の指標となるReading Span Test(以下、RST)を用い、運動との関連性について検討した.
【方法】対象は本研究に同意が得られた著明な高次脳機能障害を有しない脳卒中片麻痺患者30名(平均年齢65.7±11.8歳)とした.座位及び開脚静止立位姿勢でのRSTを行い、評定値にはスパン値と正答した再生単語数を用いた.また、対象者を病棟内歩行自立群15名と非自立群15名に分類し、各姿勢における自立群と非自立群での評定値の比較を対応のないt検定、各群における座位と立位姿勢での評定値の変化量の比較には対応のあるt検定を用い、それぞれ有意水準5%未満にて検討を行った.
【結果】立位姿勢における自立群と非自立群のスパン値・再生単語数において、非自立群に有意な低下を認めた(p<0.01).また、非自立群での座位姿勢と立位姿勢におけるスパン値・再生単語数の変化量においても、立位姿勢時に有意な低下を認めた(p<0.01).
【考察】日常生活において記憶の果たす役割は非常に大きい.後藤によると、我々が行っている日常生活動作のほとんどは、その動作を繰り返し行うなかで感覚という情報を通してその動作の記憶が確立し、その記憶の活用によって動作の細かいコントロールが可能になると述べ、運動は感覚入力と運動記憶の関係で行われているとしている.この記憶の活用がワーキングメモリの機能であり、この働きには注意が重要な役割を果たしている.今回、非自立群の立位姿勢時においてRSTの評定値に低下が認められた.これは非自立群においては、自立群と比べ習熟性の低い立位姿勢の保持という運動課題に対する注意配分量の増加が生じ、それによって認知課題に向けられる割合が減少した結果、RSTの評定値が低下したものと考える.今後、理学療法介入時において、運動のみならず、情報処理の側面からも検討する事が重要と思われる.

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© 2009 日本理学療法士協会
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