抄録
【目的】足趾機能は、立位、歩行時の前方重心移動に関して重要な作用を持つと報告されている.一方、母趾を背屈すると足底腱膜の巻き上げ現象で足内側縦アーチ(以下、MLA)が挙上する.この現象は、立脚後期の母趾の背屈によっても同様に起こると報告されている.臨床で施行されるつま先立ち練習は、歩行の立脚後期を安定化させる練習の一つである.つま先立ちは母趾を含めた足趾が背屈され、足底腱膜の巻き上げ現象が起きるが、つま先立ちと足趾把持筋力やMLAといった足部、足趾機能がどのような関係にあるのか評価した報告は見当たらない.そこで今回、重心動揺計を用いて、足趾把持筋力やMLAがつま先立ちとどのような関係にあるのか検討することを目的とした.
【方法】対象は、足部疾患を有しない健常成人23名(男性13名、女性10名、年齢26.48±3.68歳)とした.足趾把持筋力はデジタル握力計(グリップ-D、竹井機器工業社製)を改良し、膝関節90度屈曲位、足関節中間位の端座位にて左右計3回測定後、利き足の最大値を採用した.MLA高率は舟状骨高(端座位で床から舟状骨粗面までの高さを測定)を足長で割り、百分率で求めた.また母趾MP関節伸展角度を測定した.さらに重心動揺計(gravicoderGS11、アニマ社製)上で、最大の高さでのつま先立ち(以下、つま先立ち)をとり、重心動揺を各30秒間計測した.統計解析は、足趾把持筋力、MLA高率、母趾MP関節伸展角度とつま先立ちの総軌跡長、外周面積、実効値面積、前後方向の足圧中心位置との関係をそれぞれピアソンの積率相関係数を用いて検討した.なお、有意水準は5%未満とした.本研究は、慈恵大学倫理委員会で承認され、対象者に研究の趣旨を説明し、同意を得て施行した.
【結果】対象者23名の足趾把持筋力測定値は、11.11±4.53kgであった.また、足趾把持筋力測定器の3回の測定における級内相関係数は0.9885と、高い再現性が認められた.MLA高率とつま先立ちの外周面積、実効値面積(r=-0.477、-0.485)に相関関係が認められた.足趾把持筋力や母趾MP関節伸展角度と各項目間に、相関関係は認められなかった.
【考察】足趾把持筋力測定器の高い再現性が認められたのは、測定を行う前段階として、数回の練習を行ったため、対象者が自覚的に足底の接地位置や足趾把持の感覚を認識できたことで、安定した測定値が得られたと考えられた.また、MLA高率が高いと最大の高さでのつま先立ちが安定したことが示唆された.通常、MLAは足部の荷重と衝撃を吸収する機構である.つま先立ちでも、MLA高率が高いことで荷重を吸収し安定化したものと考えられた.