抄録
【はじめに】歩行時の足長軸の向きには個人差や左右差 があり、臨床でも様々なケースを経験する.足長軸は水平面足関節軸に対しわずかに内側に位置することは知られている.歩行動作において立位水平面足関節軸に対する足長軸の角(以下AT角)の増減や左右差を評価することは重要であると考える.また、AT角は水平面での内外果の位置に影響を受けると考えられ、同時に下腿の捻じれとして果部捻転角の評価も重要である.今回、自然立位でのAT角、果部捻転角の計測を行い、検討を加え報告する.
【対象と方法】対象は、研究の主旨を説明し、同意が得られた健常人20名40肢(男性11名、女性9名)年齢28.6±6.0歳 身長166.4±8.2cm 体重58.6±12.1kg であった.AT角の計測は記録用紙上に自然立位をとった被験者の足形の外形をトレースし、内外果直下を同紙にプロットする.内外果を結んだ線との垂線を0度とし、垂線と足長軸(踵骨中央から第2趾)とのなす角をAT角とした.数値は母趾方向への変位を正・小趾方向への変位を負とした.果部捻転角度は、Seibelらによる方法を用いて計測した.角度の計測は、臥位となった被験者の足元よりデジタルビデオカメラで撮影し、ビデオ動作分析ソフト、ダートフィッシュソフトウェア(ダートフィッシュ社)を用いて計測した.検討方法はAT角左右差の有無を確認し5度以上の左右差を有するA群とそうでないB群に分け、果部捻転角との相関関係を検討した.
【結果】各計測角度は平均AT角3.65±4.65度、果部捻転角度24.1±9.6度であった.AT角左右差は5度以上の差が11名(最大15度).A群のAT角と果部捻転角の関係では正の相関関係(r=0.53 n=22 p<0.01).B群では有意な相関関係は認められなかった.尚、果部捻転角はすべて外捻であった.
【考察】水平面足関節軸と足長軸との関係は足関節軸の垂線に対し6±15度母趾方向に位置するとされ、今回の計測方法でも近似した結果となった.詳細としてAT角-6~15度の範囲で40肢中32肢は母趾方向の変位、小趾方向への変位が8肢存在した.左右差の結果からも個体差、左右差の存在が確認された.果部捻転角との関係ではA群で正の相関関係、つまり足長軸の母趾方向への変位と下腿の外捻増、逆に小趾方向の変位と下腿外捻の減少が示された.しかしB群では一定の傾向はなく、興味深い結果となった.歩行動作は左右の足を交互に循環させ、前方へ進行する.その左右の動きは必ずしも一定ではなく、前に出しやすい側、踏ん張りやすい側などの運動特性が左右で存在することがある.今回の結果は、左右差の存在が荷重運動連鎖や同側下肢間での回旋協調運動との関連性を示唆するものと思われる.今回は静的な評価であり、今後は動的評価、特に歩行動作と骨形態、足位との関連性を検討していく必要性を感じた.