理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-086
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理学療法基礎系
健常成人における視覚的見積もり距離に対する奥行き知覚の影響
岩崎 史明中邨 香織工藤 舞高芝 潤大賀 隆正淡野 義長
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抄録
【目的】一般に高齢者や脳卒中片麻痺患者では,視覚座標系から運動座標系への変換過程の低下により,視覚的な到達距離の誤りや距離に応じた身体反応を起こすことが困難である.先行研究においても,対象物の高さや到達距離など見積もり機能の低下が明らかにされている.しかしながら,視覚座標系には奥行き知覚の影響が考えられ,高さや距離の認識にも重要であると考えられるが,奥行き知覚に関する研究は少ないのが現状である.今回,健常成人を対象に,距離の予測課題を用いて,見積もり機能に対する奥行き知覚の影響について検討したので以下に報告する.
【対象及び方法】対象は研究に同意を得た健常成人40名を対象とし,開眼立位で肘完全伸展・肩屈曲90度に第3指先端距離を基準点にとり,基準点より課題となる点が身体に近づいてくる群(以下,近位群:20名,平均年齢:25.8歳,男性12名,女性8名,平均視力:0.94)と基準点より課題となる点が身体から離れていく群(以下,遠位群:20名,平均年齢:25.6歳,男性12名,女性8名,平均視力:1.13)にくじ引きを用いControlled clinical testにて分類した.課題点は,検者が基準点を中心に5・10・15cm間隔に計3回提示し,基準点からの誤差距離を算出した.また,解答は目測で基準点からの距離を1cm刻みで解答させた.測定環境は,対象者の肩関節直上から前後に金属支柱を2本配置させ,その空間を透明のナイロン製ラインで固定し,ラインには移動できる印を作成した.また測定時の手がかりとなるような環境を除去するために,壁面の無機質な空間で測定し,対象者には5cmの間隔距離は知識として与えなかった.また,統計処理は対応のないt検定と二元配置の分散分析とSpearmanの順位相関係数を用いて比較検討し,有意水準は1%未満とした.
【結果】近位群/遠位群での誤差距離は課題5cm点(1.65cm/1.85cm),課題10cm点(3.65cm/2.8cm),課題15cm点(4.85cm/3.65cm)であった.両群間での誤差距離には統計学的な有意差は認めなかった(p<0.01).しかし,群内比較では,両群共に基準点から課題点の距離が延長するにつれて誤差距離が有意に高値を示していた(p<0.01).
【考察】今回の見積もり距離の結果から,基準点から課題点の距離が延長するにつれて,距離の認識に誤差が生じることが確認された.これは,自己の体性感覚を中心として身体空間や空間距離を認識しているだけではなく,視覚的な空間における参照点を基に空間距離を認識している可能性が示唆された.今後は,高齢者や脳卒中片麻痺患者を対象として,視覚情報処理能力や運動変換の特徴について研究していきたいと考える.
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© 2009 日本理学療法士協会
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