理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-087
会議情報

理学療法基礎系
運動イメージの明瞭性と課題再現性の検討
大杉 紘徳大城 昌平金原 一宏水池 千尋
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】運動イメージ(Motor Imagery:MI)によって運動パフォーマンスが向上するとされ,MIをリハビリテーションに応用することは運動学習を促す上で有効な手段となる.MIを用いたトレーニングでは,対象者の,課題運動のイメージを鮮明に描く能力(イメージ明瞭性)が高いほど,運動の学習効果も高いと考えられる.したがって,MIによる運動課題のパフォーマンス変化を期待するには,対象者のイメージ能力を高めることが重要な要因となる.本研究は,MIを用いて下肢部分荷重練習を行い,その時の被験者のイメージ明瞭性と荷重再現率の関係を検討した.

【方法】対象は書面による説明と同意の得られた健常成人とした.課題は立位での一側下肢の30%部分荷重とし,以下の手順で実験を行った.1) 目標荷重量の決定:体重測定を行い,30%部分荷重量を算出.2)課題練習:体重計の目盛りを見ながら30%部分荷重を行う.20秒間の部分荷重姿勢保持と,40秒間の休憩(計1分間)を1セットとして,5セット試行.3)課題再現率測定:目線は注視点に固定させ結果を教授せずに3セット行い,免荷側の荷重平均値と,30%部分荷重量から直前再現率を算出した.4)MI課題:被験者に課題(一側下肢の30%部分荷重)をイメージさせた. 20秒間の課題,40秒間の休憩を1セットとして5セット行った.5) 課題再現率測定:直前再現率と同様の手順で測定し,この値から直後再現率を算出した.6)イメージ明瞭性の測定:Vividness of Movement Imagery Questionnaire(VMIQ)(Isaac et al.,1986)を用いた.VMIQは24の行動項目について,自己もしくは他者が行動する場面を想起させ,その明瞭性を1~5点で評定する質問紙で,合計点数が低いほどイメージ明瞭性が高いことを示す.

【結果】1)直前再現率と直後再現率には,有意な変化はなく,有意な正の相関を認めた(r=0.681,p<0.01).2)MI課題によって課題再現率が向上する群と低下する群に分けて検討した結果,課題再現率が向上する群では,低下する群に比べてVMIQの値が有意に低い値を示し(p<0.01),イメージ明瞭性が高い結果となった.3)MI課題による再現率の向上はVMIQの値と有意な負の相関を認め(r=-0.496,p<0.05),イメージ明瞭性が高いほど課題再現率が向上する結果であった.

【考察】MI課題の前後で課題再現率に有意な変化はなく,本研究の運動課題ではMIによるパフォーマンスの変化は得られなかった.これは,課題が簡易であったことによると考えられる.MIにより課題の再現率が向上する群ではVMIQによるイメージ明瞭性が高く,さらに,それらの間に有意な関係があることから,イメージ明瞭性が高いほど運動表象が保持されやすく,MIによる運動学習効果が高いと考えられた.リハビリテーションにMIを取り入れる場合,対象者のイメージ明瞭性を考慮することがその効果を推定するうえで重要である.
著者関連情報
© 2009 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top