理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-088
会議情報

理学療法基礎系
二重課題が手指タッピング動作に及ぼす影響
―脳磁図を用いた検討―
中川 慧青景 遵之河原 裕美藤村 昌彦橋詰 顕栗栖 薫弓削 類
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】歩行のような動作では,CPG (central pattern generator) などの機構が働き,あまり意識をしなくても動作を遂行でき,動作遂行中に他の課題を行うことが可能である.本研究では,上肢動作においても同様の機構が働くのか,脳磁図を用いて計算課題が手指タッピング動作に及ぼす影響を検討した.その際,動作間隔を意識的に一定のペースで行うように指示した場合とあまり意識をしないように任意のペースで行うように指示した場合での2種類の動作を行い,動作に対する意識の違いが脳活動に与える影響も合わせて検討した.

【方法】対象は,本研究に同意の得られた神経系および筋骨格系に異常を認めない健常成人10名とした.動作課題は,0.2Hzの頻度で一定の間隔で行うように指示したペース (以下,Set pace) および任意のペース(以下,Free pace) での右示指タッピング動作とした.計算課題は,約2秒間隔で一桁の数字を提示し,加算していく暗算課題とした.暗算時は,声に出さないように計算をし,課題終了後の正答率をVASにて聴取した. 2種類のタッピング課題に計算課題を課す場合と課さない場合,さらには計算課題のみ課す場合の計5条件下で,運動準備磁界 (RF:readiness field) および計算に伴う脳活動を記録した.各試行の順番はランダムに実施した.なお本研究は,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した.

【結果】計算の正答率は,計算のみの場合に対し,Set pace+計算時には有意に低下したが,Free pace+計算時では,変化がみられなかった.また,Set pace+計算時では,10名中9名の対象者が,動作間隔を一定に保てなかった.計算時の脳活動は,計算に関連する左側頭部から前頭部にかけて,刺激呈示後600msec以降の成分が,Set pace+計算時に低下する傾向がみられた.RFは,Set pace時において,運動野付近で著明に出現し,二重課題施行時には,減少する対象者が多かった.特に,二重課題によって正答率が低下し,動作間隔に大きなばらつきがみられる対象者にその傾向が顕著に認められた.一方,RFが出現しにくい対象者は,二重課題による影響が少なかった.Free pace時では,Set pace時に比べて著明なRFが出現せず,二重課題による影響も少なかった.

【考察】タッピング動作のペースを規定した場合には,計算課題を課すことによって,計算課題の正解率,動作間隔,計算時の脳活動,運動準備磁界にそれぞれ大きな影響を与えたが,任意のペースで行った場合にそれらの影響は少なかった.また,RFが出現しにくい場合や対象者ほど,二重課題による影響が少なかった.これらのことから,あまり意識を必要とせず,運動準備に関連する脳活動が小さい動作では,上肢動作においても大脳皮質以下のレベルでの何らかの機構が働いている可能性が考えられた.
著者関連情報
© 2009 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top