理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-101
会議情報

理学療法基礎系
立ち上がり動作における前脛骨筋の役割
新井 一徳加藤 仁志今村 哲也金賀 哲也竹内 陽介高橋 正明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】立ち上がり動作時の前脛骨筋は,体幹前傾相で活動し,下腿前傾に関与し重心を前方移動させることが報告されているが,定量的な解析ではなく,他の研究においても立ち上がり動作時の前脛骨筋の役割を述べるものは少ない.我々は立ち上がり動作時に殿部付近にある重心を前方にある足部へ移動する際,足関節戦略様の戦略を用いていると考えた.足関節戦略は立位姿勢保持に重心を支持基底面に留める運動をいい,後方外乱時に前脛骨筋は活動する.そのため,立ち上がり動作時に足部が前方に位置するほど,重心を前方移動させる時間は延長し,前脛骨筋の活動時間も延長すると考えられる.そこで本研究は,足関節の運動を強調した立ち上がり動作時に前脛骨筋の活動時間を測定し,立ち上がり動作時に足関節戦略が用いられるかを検討することとした.
【対象】対象は大学生15名(男性11名,女性4名,年齢22.1±2.1歳,身長170.3±6.5cm,体重63.0±9.0kg)とした .取込基準は,身長160cm以上,足関節背屈10°以上の者とした.除外基準は神経学的・整形外科的障害,心疾患を有し,日常生活に制限が生じている者とした.ヘルシンキ宣言に基づき,全対象者に同意を得た.なお,本研究は群馬パース大学の研究倫理委員会の承認を受けて実施した.
【方法】対象は,床面から高さ40cm台上の端坐位から立ち上がる際の前脛骨筋の筋活動を表面筋電図で測定した.サンプリング周波数は1,000Hzとし,筋電データは全波整流後,活動開始と活動終了を決定しその間の時間(活動時間)を算出した.対象は膝関節屈曲80°,100°,120°の3条件で立ち上がり動作を行った.立ち上がり回数は10回とし,始めの5回を練習とした.前脛骨筋の活動時間は6回目から10回目の測定の平均値を対象者の代表値として採用した.統計学的解析は,膝関節80°,100°,120°での前脛骨筋の活動時間をそれぞれ比較するために,対応のある<I >t検定を用いて,危険率5%未満を有意水準とした.
【結果】前脛骨筋の活動時間は,膝関節屈曲80°で1117.4±140.7(msec),100°で780.9±105.8(msec),120°で631.5±74.1(msec)であった.3条件間で比較した結果,80°と100°,80°と120°の間で有意差が認められ(p<.05),膝関節屈曲角度が減少すると前脛骨筋の活動時間が延長した.
【考察】本研究では,足関節戦略を強調した立ち上がり動作の際の前脛骨筋の活動時間を測定し,立ち上がり動作時の足関節戦略を検討することを目的とした.その結果,立ち上がり動作に膝関節屈曲角度が減少する(足部の位置が前方にある)と前脛骨筋の活動時間が長くなることが明らかとなった.立ち上がり動作という動的な場面でも後方外乱時に前脛骨筋が働いていることが明らかとなり,このことは立ち上がり動作時に足関節戦略様の戦略を用いていることを示すと考えられた.

著者関連情報
© 2009 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top