理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-279
会議情報

神経系理学療法
ALS患者における体幹回旋可動性と肩関節可動性との関連
中島 光裕岩中 暁美馬屋原 康高桑田 麻衣子花岡 匡子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【緒言】慢性期のALS患者(以下,ALS患者)には比較的体幹の可動性低下を引き起こしやすく,特に男性患者では顕著である傾向があったことを前回報告した.今回はALS患者の排痰などを目的とした体位ドレナージを難しくする要因となる肩関節の可動性低下に注目した.しかし,ALS患者の体幹と肩関節の関連に対する研究は少ない.そこで本研究では,ALS患者における体幹回旋運動と肩関節運動,特に屈曲及び外転運動の可動性低下についての関連性を明らかにすることを目的とした.
【対象】ALS患者16例(【男性:8例】年齢: 66.0±12.6才,臥床期間:50.6±16.1ケ月,身長:169.1±8.1cm,体重:50.6±16.1kg,【女性:8例】年齢:60.1±10.4才,臥床期間:40.5±13.7ケ月,身長:151.5±3.8cm,体重:39.1±4.2kg)を対象とした.また,全症例臥床・気管切開による侵襲的人工呼吸管理状態である.
【方法】体幹回旋角度は,基本軸を両肩峰を結ぶ床との平行線,移動軸を両上前腸骨棘を結ぶ線とし,仰臥位にて肩甲帯を床面に固定、骨盤を他動的に回旋させ測定機器(自主作成)を利用し測定した.測定値および統計処理に関して,体幹回旋と肩関節屈曲・外転の可動性低下の関連は,体幹回旋角度は左右の合計値,肩関節屈曲及び外転角度は良側の値とし,これらの散布図より近似曲線を算出し,相関関係を検討した.体幹回旋角度,肩関節屈曲及び外転角度の男女間での比較は,いずれも平均値±標準偏差で表し,Man-WhitneyのU検定を用いて,2群間の比較を行った.有意水準5%とした.尚,研究に際し,患者及び家族に説明し同意を得た.
【結果】ALS患者男女の体幹回旋角度と肩関節屈曲角度との間に正の相関関係が認められ(r=0.81),肩関節外転角度との間にも正の相関関係が認められた(r=0.71).また,男性ALS患者の体幹回旋角度平均値は52.14±5.67度,女性は86.88±11.93,肩関節屈曲角度平均値は67.86±6.99度,女性は86.88±9.23度,肩関節外転角度平均値は71.43±7.48度,女性は93.75±11.26度であり,いずれも男女間で有意に変化した(p<0.01).
【考察】今回の研究において,ALS患者には体幹だけでなく肩関節の可動性低下も比較的引き起こしやすく,特に男性患では顕著である傾向があると同時に,肩関節可動性が低下している患者ほど,体幹可動性は低下している傾向にあることが明らかとなった.ただ,体幹と肩関節の可動性低下に関する発生時期や経過の比較など詳細な部分まで検討することが出来ていない.
前回の報告を踏まえた上で,体幹部や肩関節の可動性が排痰などを目的とした呼吸介助や体位ドレナージといった呼吸理学療法を実施する上で重要であることを考慮すると,これらに対し早期より理学療法を実施していくことは有用であると考える.今後の課題として,今回検討できなかった事項,そしてALS患者の胸郭の変形についても検討していきたい.
著者関連情報
© 2009 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top