抄録
【目的】
血栓溶解療法は2005年10月に認可がおり、当院においては2006年10月より実施している.血栓溶解療法により、機能・能力障害の早期改善が期待でき、転帰良好例が多いとされているが理学療法(以下PT)における報告は少ない.
今回、1:これまでの脳血管障害例と比較し、t-PA静注施行例(以下A群)の特性を知る.2:t-PA静注施行例に対するPTアプローチ上の留意点を検討する事により、知見を得たので報告する.
【方法】
対象は2006年10月に入院し、2008年10月までに退院した脳血管障害患者.当院におけるt-PA施行例(以下A群)9例(男3例・女6例:年齢78.3±7.8歳).2006年10月以降における脳血管障害患者のうちt-PA適応外の血栓性脳梗塞患者(以下B群)78例(男43例・女35例:年齢76.3±9.6歳).ただし、脳出血・脳幹・小脳梗塞例等、また死亡退院例、PT等が介入しなかった例は除外.
調査項目として入院時ADL(DPC様式使用)、在院日数、高次脳機能障害の有無、転帰、退院及び転院・転所時の下肢麻痺(Br.Stage)(以下BS)等を挙げた.それを元にした以下の相関関係の結果から、A群とB群を比較検討する.
1)入院時ADLと在院日数、2)入院時ADLと転帰、3)入院時ADLと退院時高次脳機能障害の有無、4)入院時ADLとBS、5)退院時高次脳機能障害と転帰、6)BSと転帰.
また、それぞれの調査項目においてA群B群の特性・留意点について検討する.
【結果】
A群に関して、2)6)においては相関関係が見られたが、他は相関関係が見られなかった.
B群に関して、1)においては相関関係が見られなかったが、それ以外においては各項目に相関関係がみられた.
また、A群B群間において在院日数・転帰・ADL改善度には有意な差は見られなかったが、BSの改善度に関しては有意な差が見られた.
【考察】
B群において、1)以外で相関関係がみられており、各項目での関係性は先の報告を踏襲するものである.
A群は4)において相関関係は見られていない.しかし、退院時の下肢麻痺(Br.Stage)で、A群B群間に有意な差が得られており、麻痺の改善による影響が考えられる.6)に関して、A群B群共に相関関係があり、転帰において麻痺の改善以外にも家族背景・環境調整等の影響が考えられる.
また、A群に関しては、全ての症例に何らかの高次脳機能障害がみられ、退院時にも残存していた.B群に関して、高次脳機能障害と転帰において有意に相関が見られる.この事により、A群においても転帰先において高次脳機能障害が大きく影響していると考えられ、PTを実施する際、出血性脳梗塞(発症後1~2週間)のリスク管理はもちろん、高次脳機能に対しても念頭に置いたアプローチを行なうことが必要と考える.