抄録
【目的】登山では、下山中に膝関節の症状が発生しやすい.ドスンドスンと歩く登山者は膝関節を痛めやすいため、多くの指導書では、地面との衝撃が少ない歩行が薦められている.今回、衝撃を足圧で測定し、歩行速度と膝関節運動との関係を検討した.
【対象・方法】健常男性3名(a:22歳、174cm、57kg、b:22歳、160cm、57kg、c:20歳、178cm、74kg)を対象にして、トレッドミル歩行での足圧と膝関節角加速度をF-スキャンとFrame-DIASIIを用いて検討した.歩行速度は40m/分から120m/分までを20m/分ずつ増加させた5条件とした.歩行開始1分後からの7歩行周期の足圧と膝関節角加速度をサンプリング周波数60Hzで解析した.膝関節角加速度は、大転子と外側上顆、腓骨頭、外果のランドマークを二次元動作解析して得られた膝関節角度から算出された.踵接地後初期の足圧最大値(以下、FP-max)と踵接地からFP-maxの間に生じる膝関節角加速度の最小値(以下、KAA-min)を求めた.スピアマンの順位相関係数でFP-maxと歩行速度およびKAA-minとの相関を求めた.
【結果】FP-maxは、対象aが40m/分で86.0 kg/cm2、60m/分で91.0 kg/cm2、80m/分で99.0 kg/cm2、100m/分で101.3 kg/cm2、120m/分で113.7 kg/cm2となった.対象bは56.0、56.7、57.9、60.7、66.2、対象cは74.7、74.8、79.9、83.1、88.7となった.同様に、KAA-minは、対象aが-4.7度/秒2、-18.6度/秒2、-18.4度/秒2、-38.4度/秒2、-35.2度/秒2となり、対象bは-7.6、-14.2、-24.4、-34.9、-50.1、対象cは-7.0、-10.0、-16.7、-24.2、-37.9となった.FP-maxと歩行速度の相関係数は、対象a~cでそれぞれ0.98、0.93、0.97(p<0.01)となり、全て極めて強い正の相関を示した.FP-maxとKAA-minとの相関係数は、-0.83(p=0.08)、-0.97(p<0.01)、-0.99(p<0.01)であり、対象2と3に極めて強い負の相関を認めた.
【考察】FP-maxと歩行速度とは極めて強い相関関係にあり、速い歩行が衝撃の強い歩き方につながることが分かった.FP-maxはKAA-minとも極めて強い相関関係があった.負の角加速度は膝関節屈曲の減速運動を表す.踵接地後の急激な減速運動が足圧を強くさせる結果となった.FP-maxは後足部荷重の時に生じるため、足関節運動で体重心を制御することは困難であり、レバーアームの長い膝関節運動が重要となる.そのため、FP-maxはKAA-minと強く相関したと考えた.