抄録
【目的】頚部の筋力強化についてこれまでの研究では頚部の最大筋力の強化、頸椎スタビリティーエクササイズによるインナーマッスルの強化や姿勢の変化等について多くの報告がある.頚部の筋持久力強化について報告はみられないが、姿勢保持やスポーツの為の頚部筋持久力も重要ではないかと考えた.今回、頚部筋持久力強化についての効果を長期経過も含め検討することを目的に研究を行った.
【方法】頸部疾患の既往のない健常成人25名(男性15名・女性12名,平均年齢29±10歳)を対象とし,筋力強化群13名(男性7名・女性6名,平均年齢31±13歳),対象群12名(男性7名・女性5名,平均年齢29±6歳)に分けた.対象者の頸部屈曲筋持久力評価として頸部正中位保持時間を測定した.頸部正中位保持時間はベッド上背臥位で頭部をベッド外へ出し、頭頂・耳介・肩峰が直線上にならぶ位置を頸部正中位とし正中位保持時間を測定した.頸部筋持久力強化は週3回の筋力強化を3週間行った.筋力強化は頸部正中位保持時間の最大時間に対する50%の時間で背臥位での頸部正中位保持運動を3セット行った.インターバルは30秒とし筋力強化は自己管理でなく研究者の管理のもと行った.対象群と筋力強化群それぞれにおいて,初期評価後3週後、9週後の頸部正中位保持時間の変化をt検定にて検定した.なお、この研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮・手続きを充分に行い、被験者に対する説明を行い同意を得た.
【結果】筋力強化群の平均頚部正中位保持時間は初期評価時は81.5秒、3週間後は149.3秒、9週間後は131.2秒であった.3週間の筋力強化によって筋力強化群の頸部正中位保持時間は初期評価時に比べ3週間後に有意に増加した(P<0.01).また筋力強化群において初期評価の9週後も初期評価時と比べ頸部正中位保持時間は有意に増加していた(P<0.05).また対象群の平均頚部正中位保持時間は初期評価時は94.6秒、3週間後は92.0秒、9週間後は82.0秒であった.対象群については頚部正中位保持時間において有意差はみられなかった.
【考察】頚部筋持久力強化の為頚部正中位保持運動を行い3週後に頚部筋持久力は有意に増強しその効果は運動中止後6週後までみられた.今回行った運動負荷では頚椎疾患を持つ患者様への応用は困難と考える.しかし頸部筋持久力強化としての効果は期待出来、柔術や総合格闘技など背臥位での持続的な頭部挙上を要求されるスポーツにおいては頸椎受傷後のストレングストレーニングや患部外トレーニングとしてこのような運動を行うことは有効であると考える.
【まとめ】頸部筋持久力強化の長期効果について検討し、健常者に対し頸部筋持久力の増強効果、運動中止後の長期効果が確認できた.今後は、このような頚部筋持久力強化を適応と判断する為の評価方法、運動強度・量を調節した臨床的な症例への応用についても検討していきたい.