理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-386
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骨・関節系理学療法
個別筋の伸張を実施し腰痛が改善した脊柱側彎症の1症例(症例報告)
木庭 孝行川山 健吉田 利彦塩田 至
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キーワード: 脊柱側彎症, 痛み, 伸張
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抄録
【目的】側彎症に対する運動療法には、クラップの匍匐運動などの古典的な体操があるが、柔軟性を強調しすぎた運動療法はむしろ脊柱に過負荷を与え骨関節障害が生じる危険がある(Licht,1984).そこで、私は、運動強度や方向において徒手的操作が比較的可能な個別筋(最長筋,腸肋筋)の伸張運動に着目し、約6ヶ月間治療したところ良好な結果が得られた症例を経験したので報告する.
【症例】症例はデスクワークが主体の事務職27歳女性である.18歳時の就業まで、学校検診などで側湾症の指摘を受けた既往はない.20歳時、腰痛のため当院を受診し、特発性側彎症の診断を受けたが対症療法のみであった.平成20年3月頃より(27歳)腰痛が再燃し、通常の仕事に支障をきたすようになり、当院を再受診した.
【方法】痛みは、胸椎周囲筋、腰椎周囲筋にみられた.特に腰椎周囲筋の痛みは、日々変化した.脊柱起立筋は胸椎部で左側に比べ右側がやや過緊張であったが、腰椎部では反対に左側が過緊張であった.立位姿勢は、胸椎右凸側彎、腰椎左凸側彎、左肩下制の非対称で、胸椎cobb 43°腰椎cobb 33°であった.Finger-Flower-Distance(以下FFD),Functional reach test(以下FRT)は、それぞれ14.5cm、29.0cmであった.治療は、腸肋筋・最長筋の伸張とリラクゼーションを目的に他動的な伸張を座位、背臥位で実施した.座位による腸肋筋・最長筋の上部繊維を主とする伸張は、体幹を前屈しながら左右に回旋する方法によった.背臥位での下部腸肋筋・最長筋の伸張は、骨盤の回旋と同時に下部体幹を屈曲する方法によった.
【結果】背部痛は初回の治療で治療前VAS 7.8→治療後VAS 4.5と減少した.腰部痛も、治療前VAS 5.4→治療後VAS 3.7と減少した.またFFDは12.0cmに減少し、FRTは37.0cmまで延長した.日常生活では通常のデスクワークに支障をきたすことが少なくなった.しかし、理学療法を数日休止すると痛みが再燃するため定期的な治療が必要と考えられた.
【考察】上部腸肋筋・最長筋の伸張に対して正常な胸椎椎間関節の動きは左側への側屈時に左回旋が生じるが、本例では胸椎部(胸椎7番~9番)の椎間関節は左側への側屈時に右側への回旋が認められた.それ故,屈曲・左側屈を意識して伸張を促すよりも左側への回旋を強制しながら伸張するほうが痛みの軽減に有効と考えられた.すなわち、特発性側彎症に対する伸張運動において運動強度はもちろんであるが、運動方向を十分に考慮した徒手的操作を行うことの重要性が示唆された症例と考えられる.ただ、側彎の程度によって伸張方向、強度が異なることが推測されるため、今後更に症例を蓄積し特発性側彎症に対する伸張運動の有用性が高まるべく検討したい.
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© 2009 日本理学療法士協会
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