主催: 社団法人日本理学療法士協会
【目的】
剣道競技は右足が前方、左足が後方の構えで、技を打ち込むときの動作も股関節を中心として右足を前方に大きく振り出し、左足を後方に蹴る一定動作である.そのため、剣道選手の特徴的な腰痛を臨床上よく経験する.そこで今回、剣道選手の正面打突動作における股関節の動きや股関節可動性の特徴について調査し、腰痛との関係性について若干の知見を得たので考察を加え報告する.
【対象および方法】
研究の趣旨を十分説明し同意を得た男子大学剣道選手37名、年齢20.4±1.1歳(mean±SD)、経験年数12.7±2.4年(mean±SD)を対象に、腰痛群26名と非腰痛群11名の2群に分類.日本整形外科学会が定める関節可動域テストの方法で股関節屈曲・伸展、外旋・内旋・回旋の可動域を測定.各可動域における左右差と差のあった運動に対して腰痛群・非腰痛群の2群間で比較した.統計学的分析はt検定を用いた.さらに、そのうち2名(腰痛群1名、非腰痛群1名)において正面打突動作による踏み込み動作(踏み込み前期:右足部離床~右膝最高点と踏み込み後期:右膝最高点~右足部着床)を6台の赤外線カメラ(180Hz)を有する三次元動作解析装置UM-CATII(ユニメック社製)を使用して、股関節の回旋動作を測定・分析した.股関節の回旋は、19ヶ所に貼付したマーカーのうち両上前腸骨棘を結んだマーカーの線(骨盤線)に対する両大腿骨の内・外側上果のマーカーを結んだ線(右大腿線、左大腿線)のY軸に対する水平面上の回旋で計測した.
【結果】
内旋可動域と回旋可動域において有意な左右差が認められた.股関節内旋可動域は、両群ともに左側が有意に小さかった.(腰痛群p<0.01、非腰痛群p<0.05).回旋可動域は、腰痛群で有意に左側が小さかった(p<0.01).外旋可動域は、腰痛群で有意差は認められなかったが左側で大きい傾向を示した(p<0.058).左右差の2群間における比較は、回旋可動域において腰痛群が有意に大きかった(p<0.05).正面打突動作の股関節の内・外旋の動きは、腰痛群・非腰痛群ともに左側は踏み込み前期と後期すべてにおいて外旋、右側は非腰痛群で踏み込み前期は内旋、踏み込み後期は外旋していた.腰痛群は非腰痛群と逆の動きをしていた.
【考察】
剣道選手の股関節可動域の特徴として、腰痛群・非腰痛群に関わらず内旋可動域が右に比べ左が有意に小さかった.これは、剣道の正面打突動作が股関節伸展に伴い外旋しているため、外旋筋群(大臀筋、腸腰筋)に過度なストレスが生じていることによる要因と思われる.また、腰痛群の左股関節回旋可動域が90°以下と少なく左右差が有意に大きかったこと、正面打突動作では左股関節伸展に伴い外旋していることなどから、回旋可動域が低下すると下肢からの運動連鎖の破綻に伴う脊柱へのストレスにより、腰痛が発症する可能性があると考えられた.