抄録
【目的】第27回関東甲信越理学療法士学会にて運動療法と注射療法が肩関節周囲炎の治療期間に与える影響の短期の検討を報告した.今回、症例数を加えて長期成績の検討をしたので報告する.
【対象】平成18年6月~平成20年10月の間に肩関節周囲炎と診断された患者42例(男性7例、女性35例)51肩(右肩26、左肩25)で、平均年齢65.4±9.9歳であった.事前に研究の趣旨を説明し同意を得た.病変部位が明らかな患者を除外した.
【方法】治療成績を治療開始時と最終時の肩関節屈曲及び外転角度の増加量で評価した.治療期間を保険制度の逓減制をふまえて短期間群(1~4ヶ月間、15肩)と長期間群(5ヶ月間以上、36肩)に分けた.運動療法を週1日以下施行群(22肩)と週2日以上施行群(29肩)に分けた.注射療法をヒアルロン酸ナトリウム関節腔内注射(以下ヒアルロン注)の頻度とし、それぞれ4週間に1回以下(18肩)2週間に1回(11肩)及び1週間に1回(22肩)に分けた.単独群(運動療法群及びヒアルロン注群)と併用群(運動療法とヒアルロン注)に分け治療期間と可動域の成績を検討した.統計処理にStatcel2を用いた.各群間の比較に対応のあるt検定を用い、有意水準を1%未満とした.
【結果】長期間群の治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた.運動療法の頻度に関係なく治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた.ヒアルロン注の2週間に1度群及び1週間に1度群の治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた.併用群と単独群(運動療法群とヒアルロン注群)の治療期間がそれぞれ11.0ヶ月8.6ヶ月及び8.7ヶ月で、併用群のみ有意な可動域の改善を認めた.
【考察】前回我々が発表した短期間成績の結果と今回の長期間成績の結果は、運動療法とヒアルロン注の施療頻度に関わらず屈曲及び外転角度の改善を認めた.通院初期は夜間痛と運動時痛に対して有効なヒアルロン注を行い、亜急性期は可動域の改善を図ろうとするため運動療法の施療頻度が高くなったと思われた.単独群に比べ併用群の治療期間が前回短期で評価した場合よりも、今回長期で評価した結果の方が有意に治療期間が延長していた.治療期間の延長にモチベーションが関与していると思われた.すなわち、併用群の多くが疾患を克服するというモチベーションを強く持っていた.単独群は「運動すると痛くなる、注射が嫌い」など治療の阻害因子が見受けられた.これらの心理が併用群の治療期間を長期に亘る原因と考えられた.可動域は併用群のみ有意に改善していた.これは加賀谷らの運動療法とヒアルロン注の併用が運動療法単独より痛みや可動域の改善に有用であったのと同様であった.これらのことから保険制度逓減制内の肩関節周囲炎の治癒は改めて難しいことが分かった.併用療法が有効なので完治意識を与え、通院期間を軽減するような治療が望ましい.