抄録
【目的】人工膝関節全置換術(以下、TKA)において術前の屈曲可動域制限が術後の獲得可動域に影響することについての報告は多く存在するが、伸展可動域の報告は少ない.可動域制限を伴う変形性膝関節症(以下、膝OA)が進行している場合には両側TKAが適応になる場合が多く、患者の満足度を得るためには、筋機能の向上や歩容を改善するために、屈曲だけでなく伸展可動域の改善を獲得する必要がある.今回、当院における両側TKA症例の術前・術後の可動域変化を調査し、その経過について検討した.
【対象】平成15年3月~平成19年11月の期間に一側TKAを3ヶ月以上の期間をあけて両側に施行した26名52膝(男性2名、女性24名、平均年齢73.8歳).全例、膝OAに対する手術で、PCL切離型44膝、PCL温存型8膝であった.術後の理学療法は、クリニカルパスにそって翌日より全荷重を許可し、自動および徒手による関節可動域訓練を行い、3週間でT字杖歩行にて退院を目標とした.退院後の通院は基本的に1~3ヶ月に1度の経過観察および指導とした.
【方法】先手術側と後手術側について、術前および片側術後の退院時、両側術後の退院時、また両側術後6ヶ月、12ヵ月後の膝関節伸展可動域の経過を調査した.可動域改善効果については、t検定にて比較、検討した.
【結果】術前の伸展可動域の平均は-9.33°であった.両側術後12ヶ月では先手術側で平均-2.50°、後手術側で平均-2.31°であった.先手術側では、両側術後まで伸展可動域の改善が認められた.後手術側では、両側術後から6ヶ月経過するまで可動域改善が認められた.両側術後6ヶ月から12ヶ月までの経過で両側ともに可動域は維持されていた.全体では26例中21例(80.8%)が両側術後12ヶ月経過時に両膝ともに完全伸展が獲得できていた.術前に両側に10°以上の屈曲拘縮が存在していた10例では、7例で術後12ヶ月経過時に完全伸展を獲得していた.
【考察】伸展可動域については両側TKAを施行した症例で、80%以上に良好な結果が得られた.TKAの術後には十分な伸展可動域を獲得しても、反対側に屈曲拘縮が存在すると、再び屈曲拘縮を呈する可能性があるといわれている.このような場合には、脚長差にあわせて補高を使用することで、一旦獲得した可動域を継続し、両側術後にはアライメントの改善により良好な可動域が獲得できたと考えられる.その可動域改善効果は両側術後6ヶ月まで得られると考えられ、自主トレーニングの重要性が示唆された.また術前の伸展可動域が術後に影響するため、術前に屈曲拘縮が存在する例に対しては、術前からのROM改善は重要であると考えられた.