理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-426
会議情報

骨・関節系理学療法
牽引が筋力に及ぼす影響について
山本 泰司
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】ストレッチングや関節モビライゼーションなど、牽引を主体とする理学療法手技は多く、その効果についても多数の報告がある.しかし牽引それ自体の生理的意味を考察した報告は、筆者の渉猟し得た範囲では少なかった.今回、その生理的意味、および適用について考察、検討する.

【方法】対象は、書面および口頭にて内容を説明し同意を得た肩関節に問題のない健常成人10名(男性6名、女性4名、平均年齢26.5±7.2歳、平均身長165.75±7.8cm平均体重56.7±6.7kg)とした.
はじめに、座位にて肩関節が肩甲骨面挙上60°位で挙上筋力を測定し、次いで背臥位にて同肢位で5分間、3 kgにてスピードトラック牽引を行う.牽引後は直ちに座位で筋力を測定する.牽引前と後の筋力測定は,アニマ社製,ハンドヘルドダイナモメーターμTas MF-1を用い、5秒間の収縮の最大値を採用した.

【結果】筋力の平均値は、牽引前18.4 kg、牽引後は16.44 kg、p値は0.02で牽引後は前に比べ有意に減少した.また、体重で除した割合では、牽引前32.82%、牽引後は29.37%、p値は0.04で牽引前に比べ有意に減少した.

【考察】我々は地球上において1Gという重力下において活動している.その環境において移動や作業を行う場合、関節は摩擦制御を行いながら動力を適切に伝達している. 吉田は関節を構造上、機能上の特性から、神経シナプスと同様であると看破し、形態的シナプスと呼んでいる.関節は運動量、神経シナプスにおいては分子数の輸送、すなわち両者は物理的には輸送現象が発現している場である.輸送が適確に行われるためには、生理的範囲内の距離が必要であり、限界を超えると正しく伝達されないことが推察される.
今回、牽引の前後で筋力が低下したのも、牽引により粘性の変化が生じ動力の伝達が阻害されたものと考えられる.対象の中には筋力が増加した者もいる.その被検者は牽引時には、牽引されている感覚はなく、牽引されている感覚が生じるまで牽引力を増加すると筋力は減少した.筋力の増加は、筋の伸展性回復や組織潤滑性の獲得など、従来言われている機序が作用したと考えられる.
筋力の増強やパフォーマンスの向上を目的とするストレッチングや関節操作手技を実施する場合、運動量の輸送という概念下において、生体の潤滑やレオロジー特性を勘案し、局所における牽引力の時間的、量的な当量を決定すべきであろう.しかしながら、牽引は重力下における活動という観点からは非生理的であり、面圧、束縛力を加えるほうが望ましいと考える.
著者関連情報
© 2009 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top