理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-539
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内部障害系理学療法
僧帽筋のマッサージが呼吸機能に及ぼす影響について
立石 貴之
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抄録

【目的】呼吸困難感のある患者の呼吸パターンは横隔膜を中心とした腹式呼吸よりも頚部・背部筋を中心とした胸式呼吸が優位になる印象がある.腹式呼吸に比べて換気効率が悪いといわれている胸式呼吸に移行しやすい理由の詳細は不明であるが、鰓弓神経由来の顔面・三叉・舌咽・迷走神経に支配される筋がやむにやまれず優位に働かざるを得ない状況に陥るのかもしれない.また、藤田は、僧帽筋は副神経からも支配されており、水棲脊椎動物の鰓弓を動かす筋と同じ由来を持つものと考えられると述べている.そこで今回、僧帽筋のマッサージが呼吸機能に及ぼす影響について検討することを目的とした.
【方法】対象は健常男性16名(平均年齢28.8±5.8歳)とした.被験者には実験の趣旨を説明し、了解を得た.呼吸機能検査として、CHESTAC-55V(CHEST社)を用い、閉鎖回路法(He希釈法)にて、機能的残気量(以下FRC)、残気量(以下RV)、全肺気量(以下TLC)を測定した.測定肢位は両手部を大腿部に置き、背もたれに依存した椅子座位とした.呼吸機能検査を3回実施し、次に僧帽筋に対して柔捻法によるマッサージを腹臥位にて10分間実施し、その後さらに呼吸機能検査を3回実施した.また、マッサージ前後の僧帽筋の筋硬度の変化を確認するため、NEUTONE TDM-N1(トライオール社)を用い、マッサージ前後に3回測定した.測定部位は肩峰と第7頚椎棘突起の中点とした.各パラメータは平均値を代表値とした.統計処理にはt検定、Pearsonの相関係数を用い、危険率5%未満を有意とした.
【結果】マッサージ前のFRC(3.20±0.47L)、RV(1.61±0.25L)に比して、マッサージ後のFRC (3.06±0.50L)、RV(1.48±0.23L)は有意に低下していた.マッサージ後の僧帽筋の筋硬度はマッサージ前に比して有意に低下していたが、マッサージ前後の筋硬度とFRCの変化量の相関係数は0.40(P=0.13)であり、有意な相関関係は認められなかった.
【考察】松本ら(2004)は肺気量の減少と呼吸困難感の緩和との関係は肺気腫では密接であると報告しており、今回の結果は僧帽筋のマッサージが呼吸困難感を緩和する一つの手技となりうることを示唆すると思われる.また、今回の結果は僧帽筋の筋硬度の低下により肩甲骨が下制し、胸郭がより呼気位になった要因が大きく影響していると思われるが、筋硬度とFRCの変化量に有意な相関関係が無いことを踏まえると、系統発生学的に呼吸に強く関連していた僧帽筋のマッサージが呼吸パターンにおける神経生理学的な変化を引き起こした可能性もあるかもしれない.今後、健常女性、呼吸器疾患患者を対象とした同様の研究を継続していきたい.
【まとめ】健常男性において、僧帽筋のマッサージはFRC、RVを有意に低下させる.

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© 2009 日本理学療法士協会
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