抄録
【目的】糖尿病の治療は,食事療法・運動療法・薬物療法がある.運動療法の目的は,有酸素運動・筋力トレーニングなどを指導し,ライフスタイルを変化させ糖代謝を改善することである.そこで,当院における糖尿病教育入院(2週間コース)において運動指導を実施し,その効果を検討した.
【方法】対象は,2007年11月~2008年7月の期間に健康保険鳴門病院の糖尿病教育入院に参加し,研究実施にあたり主旨を説明し協力の得られた26名(男性18名,女性8名,年齢56.8±14.6)とした.方法として,有酸素運動の運動強度は心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise test)を実施し,嫌気性代謝閾値(anaerobic threshold)の心拍数を用いた.また,運動療法プログラムにそってストレッチング・筋力トレーニング・ウォーキング・ライフスタイルの改善などを指導した.糖尿病教育入院時(初日)と3ヶ月後のHbA1cを測定,健康関連QOLは疾患特異性のないMOS Short-Form 36-Item Health Survey version 2(以下SF36v-2)を用いて検討した.入院時と3ヶ月後の比較には,対応のあるt検定を用いて統計学的処理にはSPSS17.0を使用し,危険率5%未満を有意とした.
【結果】入院時・3ヵ月後変化において,HbA1cでは有意に低値を示した(p<0.01).SF36v-2において, 身体機能(以下PF)・日常役割機能身体(以下RP)・活力(以下VT)・日常役割機能精神(RE)・心の健康(MH)で高値を示し(p<0.01),全体的健康感(GH)でも高値を示した(p<0.05).特に、入院時PF(43.9±16.2)から3カ月後PF(49.3±13.2)・入院時VT(48.8±11.0)から3ヵ月後VT(57.2±9.8)へと著明に高値を示した.しかし,体の痛み(BP)・社会生活機能(SF)の2項目については,変化がみられなかった.入院時の国民標準値では全項目で低値を示したが,3ヶ月後にはPF・RPを除く全ての項目で標準値に達した.
【考察】本研究の結果から,糖尿病教育入院に参加することにより,HbA1cに有意な改善がみられた.また,SF36v-2より3ヵ月後には6項目が国民標準値に達しており,特にPF・VTにおいて著明に改善がみられた.これらの効果は,食事療法・薬物療法の他に運動療法プログラムを終了することにより,ライフスタイルの変化・運動習慣が改善されたことが考えられ,その結果により代謝機能の改善に繋がったということが示唆された.
【まとめ】3ヶ月後のHbA1c・健康関連QOLにおいて運動療法の効果も示唆されたが、今後は長期成績についての検討やCPXによる身体機能評価も実施していく必要がある.