抄録
【はじめに】わが国における知的障害者の高齢化問題に関しては、1970年代より本格的な議論がおこなわれており、様々な領域で問題提起や対策がとられている.リハビリテーション(以下リハ)分野における議論は若年の療育分野では盛んに行われているが、重度障害を伴う中高齢者の報告は少ない.今回、当施設にて経験した中高年の知的障害者へのリハの現状を報告する.
【概要】当施設には、同敷地内にある知的障害者入所施設から施設利用変更された、重度の知的障害を伴う中高齢者が多く入所している.対象者の中には、重度の知的障害のため、運動器や脳血管疾患の発症後一般病院でのリハが不十分なまま施設生活に戻り、愛護的な生活支援を送ることにより機能低下をきたしたケースが多くみられる.また、当施設は入所者106名に対し、リハスタッフが医師、PT、OT各1名と少ない.また、併設施設の入所者(500名以上)もリハの対象者となっている.
【課題と取り組み】課題としては、1.本人の障害に対する理解が無く、リハへの意欲が乏しい.2.ダウン症の早老化など中高年早期からADLが低下.3.言語指導が困難で、一般的な評価方法を用いることが困難.4.マンパワーの不足による通院利用者に対するリハの不十分.などが挙げられた.それらに対する取り組みとして、1.本人の知的レベルや性格を把握し、本人の好きなことを用いての課題や目標の設定.2.普段の生活でのADLをリハのひとつと捉え、病棟の看護師や支援員の協力を得て、職員に指導を行うことにより、入所者のADL向上に努める.3.日常生活の動作を観察し、筋力や感覚等の評価を行う.4.併設施設入所者へのリハは職員への運動・介護指導を行い、早期の施設におけるADL訓練への移行を図る.などでを行った.
【結果と今後の課題】骨折等の運動器疾患患者は、歩行補助具を用いたケースを含め約87%が歩行可能となった.また、当施設の入所者においては、開設当初寝たきりであった入所者もいたが、車椅子座位も含め座位の獲得は100%になるなど成果があった.一方、ダウン症患者においては、運動器機能改善がみられても早老化の問題より全般的なADLは徐々に低下してきている傾向がみられた.当施設では、医療と生活の場が一体となっている特長を生かし、入浴や食事の場面に介入し、ADLもリハとなるよう協力の要請や指導を行っている.しかし、全病棟職員に指導が十分いきわたらず、転倒などの事故に遭遇することもあった.そのため、他職種間との話し合いの場を増やし、入所者のADLの維持・向上を目指す安全で確実なより良い環境づくりが求められる.また、併設の施設においても、入所者の半数が50歳以上であるため、「介護研修」の場においては愛護的介護による弊害を説明し、今後起こりえる機能低下の防止に努めていく必要がある.