抄録
【はじめに】介護保険制度の開始から8年が経過し、要支援、要介護者の増加や給付費用の増大等、様々な課題が出現し介護予防重視型システムへの転換が図られている.介護予防事業を制度化し具体的に実施するために、地域支援事業が創設され、要介護リスクの高い特定高齢者に対する施策(以下特定施策)と、それ以外の比較的元気な一般高齢者に対する施策(以下一般施策)が全国の自治体で実施されているが、特定施策のサービスがほとんど利用されていない状況が指摘されている.しかし、特定高齢者は日常生活の自立性を損なうリスクが高いため、全くサービスの利用がないとは考え難く、一般施策のサービスの中にも特定高齢者が少なからず存在しているのではないかと推測した.今回、本市における特定高齢者の介護予防サービス利用状況、及び一般施策の利用状況について調査し、介護予防事業の効果的な展開方法について検討したので報告する.
【調査方法】平成19年度に松山市が把握した特定高齢者数と特定施策のサービス実施状況を調査し、この情報を保健所で一般施策として実施する高齢者運動支援事業(以下健康教室)の参加者情報と照合し、一般施策に参加している特定高齢者の割合を算出した.また特定施策のサービス利用者数と終了者数を比較し、終了時点での利用者の転帰状況についても調査した.なお、本調査で得られた情報に関しては松山市個人情報保護条例に基づき、適正かつ厳重に行った.
【結果及び考察】平成19年度に本市が把握した特定高齢者数は2,052名で、このうち特定施策の介護予防メニューの利用者は110名(5.4%)と非常に少ない利用率であった.特定施策の利用者110名中、サービスを利用し終了した者は39名(35.5%)、途中で要支援・要介護となった者は3名(2.7%)、残りの68名(61.8%)は途中で中断しており、特定施策の介護予防メニューが機能していない状況が示唆された.また介護予防プログラム終了者は対象者の1.9%と少なく、事業が創設され2年が経過しても、サービスが定着していない状況が伺えた.一方、健康教室の参加者1,533名中、特定高齢者が84名(5.5%)参加しており、本来用意された特定施策でなく一般施策を利用している者が存在した.これは健康教室が市内全域で定期的に開催され、身近な場所で利用できることによるものと考えられる.現実に特定施策が機能していない状況で介護予防を進めていくためには、一般施策に特定高齢者の参加を促していくことも必要である.特定高齢者は要介護のリスクはあるが現状では自立している状態であり、今後、地域包括支援センターや各関係機関との連携を図りながら、地域の通いやすい場所で、介護予防に資する内容での効果的なプログラムを継続的に提供することが重要になると考える.