理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: Se2-026
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専門領域別演題
不動期間の違いがラット足関節の不動中ならびに不動解除後の痛みにおよぼす影響
痛覚閾値ならびに疼痛関連行動、脊髄後角c-fos陽性神経細胞の変化から
濵上 陽平中野 治郎本田 祐一郎片岡 英樹坂本 淳哉近藤 康隆沖田 実
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抄録
【目的】
難治性の慢性痛を呈する複合性局所疼痛症候群(CRPS)Type Iの診断基準に不動の有無が掲げられているが、これは臨床研究、ならびに基礎研究の双方で不動が痛みの発生に直接的に関与すると捉えられているからである。しかし、Guoらの報告によれば、4週間のラット足関節不動化モデルで見られる痛覚過敏は不動解除2週後に回復する一過性のものとされており、CRPS Type Iの臨床像とは異なる点があるのも事実である。このことに関しては、不動期間が短期であることが影響しているのではないかと予想されるが、この点を明らかにした報告はない。そこで本研究では、不動期間4・8週間のラット足関節不動化モデルを用いて不動期間中から不動解除後まで経時的に痛みの推移を評価した。加えて、不動期間の違いが痛みにおよぼす影響を明らかにするため、急性持続性疼痛の評価方法として知られるホルマリンテストを用い、疼痛関連行動、ならびに痛みに関する神経活動マーカーとされているc-fos陽性細胞の脊髄後角での分布を検討した。
【方法】実験1:8週齢のWistar系雄性ラットを無処置の対照群(n=5)と実験群(n=20)に分け、実験群はギプスを用いて右側足関節を最大底屈位の状態で不動化し(不動側)、左側足関節は無処置とした(非不動側)。そして、不動期間を4週間(4I群;n=10)と8週間(8I群;n=10)に設定し、不動期間終了後はギプス固定を解除してさらに4週間通常飼育した。実験期間中は1回/3日の頻度で足背部にvon Freyテストと熱痛覚閾値温度測定を行い、機械刺激に対する痛みと熱刺激に対する痛みを評価した。
実験2:実験1と同様に、8週齢のWistar系雄性ラットを対照群(n=10)と右側足関節を不動化する実験群(n=10)に分け、不動4週後、8週後の時点で対照群(4CF群;n=5、8CF群;n=5)、実験群(4IF群;n=5、8IF群;n=5)にホルマリンテストを実施した。ホルマリンテストの方法は、10%のホルマリン溶液25μlを不動側のラット足蹠皮下に注入した後60分間、足を舐める、噛むといった疼痛関連行動を示した秒数を測定した。また、ホルマリン溶液注入の2時間後、ラットを灌流固定して第4腰髄を摘出し、その凍結横断切片を用い、c-fosに対する免疫組織化学染色を実施した。そして、不動側、非不動側の脊髄後角に分布するc-fos陽性細胞数をカウントした。
【説明と同意】今回の実験は長崎大学動物実験委員会が定める動物実験指針に基づき長崎大学先導生命体研究支援センターの動物実験施設において実施した。
【結果】実験1:対照群と比較して実験群の機械刺激・熱刺激に対する痛覚閾値は不動2週目から有意に低下し、不動期間に準拠して低下し続けた。一方、不動解除後の痛覚閾値をみると、4I群は回復するものの、8I群には回復がみられなかった。実験2:疼痛関連行動の出現は、ホルマリン注入5分後においては4CF群、8CF群に比べ4IF群、8IF群それぞれ有意に増加したが、10~25分後においては8CF群と8IF群の間のみに有意差が認められた。一方、不動側の脊髄後角におけるc-fos陽性細胞数は、4IF群と4CF群には有意差を認めなかったが、8IF群は8CF群、ならびに4IF群より有意に高値を示した。なお、非不動側におけるc-fos陽性細胞数は、すべての群間で有意差を認めなかった。
【考察】今回の結果、機械刺激・熱刺激に対する痛覚閾値は不動2週目から低下が認められ、これは不動が痛覚過敏を惹起するという事実を示しており、しかもその発生時期が明確となったと考えられる。そして、不動期間が4週間の場合は痛覚過敏は不動解除後に回復したが、8週間では回復は認められず、慢性的な痛みに発展している可能性がうかがわれた。次に、ホルマリンテストにおける疼痛関連行動は、一般に注入直後の第1相と注入10分以降の第2相に分けて捉えることができ、第1相は末梢組織の痛みを、第2相は脊髄後角細胞の感受性の亢進を反映するとされている。つまり、第2相において疼痛関連行動の増加が認められた8IF群は脊髄後角細胞の感受性が亢進していたと考えられる。そして、このことを裏付ける事実として8IF群の不動側においては、脊髄後角でのc-fos陽性細胞の増加が認められた。したがって、今回用いたモデルにおいては、不動期間が4週間の場合はその痛みは一過性であるが、不動期間が8週間におよぶと脊髄後角細胞に感作が生じ、このことが影響して慢性的な痛みになると考えられる。
【理学療法研究としての意義】各種の疾病・外傷に対して理学療法を実践する上で痛みの発生は大きな支障となることが多いため、その予防と治療に関する研究が進められている。本研究は不動が原因で発生する痛みの発生時期やその推移、ならびに慢性化する時期を示したものであり、痛みの予防と治療を考えていくための理学療法研究として十分な意義がある。
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© 2010 日本理学療法士協会
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