理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: Se2-039
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持ち上げ動作の負荷強度増大に伴う内発的呼吸量と腹腔内圧の規則的変化
河端 将司島 典広西薗 秀嗣
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キーワード: 腹腔内圧, 1回換気量, 体幹
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抄録
【目的】持ち上げ動作の負荷強度増大に伴う内発的な呼吸量変化および腹腔内圧の上昇量とタイミングの変化を明らかにし,さらに呼吸量変化と腹腔内圧変化の関連性を検討すること。

【方法】健常男子大学生11名(22±2歳,173±7cm,64±7kg)を対象とした。動作開始肢位(膝伸展位,体幹前傾位,膝蓋骨上縁の高さでバーを把持)における等尺性最大筋力を張力計にて計測し,得られた最大筋力値(100%MVC)に対して30%,45%,60%,75%MVCに相当する重量を使用し,0.5秒間の股関節伸展動作を行わせた。股関節に電子ゴニオメータ(SG150,Biometrics社製)を取り付けて動作開始と終了の指標とした。被験者には動作遂行のみを意識させ,呼吸と腹腔内圧が意識的に操作されないように配慮した。呼吸量はフローメーター(FM-200,Arco System社製)を使用して,動作開始前の一回吸気量および動作中の呼気量を算出した。腹腔内圧は直腸圧センサー(MPC-500, Millar社製)を用いて動作中の腹腔内圧上昇量を測定し,直立位バルサルバ操作で得られた腹腔内圧の最大値(VmaxIAP)で除して相対化した(河端ら.2008)。動作開始点を基準として腹腔内圧の立ち上がり時間(T onset)とピーク時間(T peak)を算出した。ランダム化された各強度の課題を練習後に各3回実施し平均値と標準誤差を求めた。各項目の強度間比較を一元配置分散分析と多重比較(Dunnet,Tukey)を用いて有意水準5%にて検定した。

【説明と同意】全対象者に本研究の主旨を説明し書面にて同意を得た。本研究は鹿屋体育大学大学院倫理委員会の承認を得て行われた。

【結果】動作遂行時間と股関節角度変化は強度間で有意差を認めなかった。安静時一回換気量(Vt)を100%とすると,30~75%MVCの順に吸気量は79±12,105±20,142±18,169±21(%)と漸増し,呼気量は30±11,30±13,14±8,4±1(%)と漸減した。吸気量と呼気量は有意な強度の主効果を認め,Vtとの比較において,吸気量では60%および75%MVC,呼気量では全強度において有意差を認めた。腹腔内圧に関しては,上昇量は25±5,40±4,52±5,63±6(%VmaxIAP)と漸増し有意な強度の主効果を認めた。動作開始を0 msとすると,T onsetは-210±39,-272±26,-334±19,-380±23(ms),T peakは170±29,151±20,116±24,66±31(ms)とそれぞれ有意な強度の主効果を認め,強度の増大に伴い早期化した。腹腔内圧の上昇量とT onsetでは,60%MVCは30%MVCと,75%MVCは30%,45%MVCと有意差を認めた。T peakでは75%MVCは30%MVCと有意差を認めた。T onset からT peakまでの時間は380±32,423±22,450±22,446±25(ms)であり強度間で有意差を認めなかった。

【考察】本研究では負荷強度の増大に伴い,吸気量の増大,呼気量の減少,腹腔内圧の増大,腹腔内圧の立ち上がり時間とピーク時間の早期化を認めた。負荷強度の増大に伴う腹腔内圧の増大は体幹安定化の要求が増大したことが要因として考えられ(Cresswell et al. 1994),タイミングの早期化はピークを動作開始に一致させて早期に体幹を安定させるための変化であったと推察される。また吸気量がVtから有意に増大するような負荷強度において腹腔内圧の上昇量とタイミングも変化する傾向にあった。意図的に吸気量を増大,呼気量を減少させることは腹腔内圧の増大にとって補助的に寄与することが報告されている(Hagins et al. 2006)。本研究における呼吸量と腹腔内圧の変化は意図的に操作されたものではなく,無意識的なふるまいであった。すなわち内発的な呼吸量変化は腹腔内圧の増大を補助するように貢献していたと推察された。総じて,内発的な呼吸量変化と腹腔内圧の増大は負荷強度に応じて変化し,さらに腹腔内圧変化にとって有利となる呼吸量変化が無意識的に遂行されている可能性が示唆された。

【理学療法学研究としての意義】持ち上げ動作において脊柱安定化機構として重要な役割を担う腹腔内圧が,呼吸量の変化と密接に関連しながら負荷強度に応じて制御されていることを明らかにした。これらの腹腔内圧と呼吸量の規則的な変化は動作開始に先立って運動制御されるものであり,安全な持ち上げ動作遂行の可否に影響を及ぼし得る重要な運動制御であると考えられる。
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© 2010 日本理学療法士協会
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