理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-085
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一般演題(口述)
広汎白質病変患者における歩行中の重心移動の特徴
南角 学井関 一海中村 孝志
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抄録
【目的】広汎白質病変患者の歩行障害の特徴は,歩き始めと歩行動作自体は保たれるものの早期より姿勢制御が障害される、と報告されている.この姿勢制御の障害により歩行中重心の動揺性が大きくなり,不安定歩行を呈する症例を臨床場面で経験する.しかし,広汎白質病変患者の歩行中の重心動揺を定量的に評価した報告は少なく,不明な点が多い.本研究の目的は,1)広汎白質病変患者の歩行中の重心の動揺性を定量的に評価すること,2)歩行中の重心の動揺性が重心移動からみた歩行効率に影響を及ぼしているかを検討することである.
【対象】MRI画像にて脳質周囲及び深部白質の白質病変がFazekas grade3に該当する患者18名(年齢68~84歳,男性9名,女性9名)を対象とし,さらに3人の神経内科医の判断により歩行障害群10名(年齢77.2±3.1歳,男性6名,女性4名)と非歩行障害群8名(年齢74.9±4.1歳,男性3名,女性5名)の2群に分けた.両群間において年齢,身長,体重に有意差は認めなかった.
【方法】測定には8mの歩行路上に2基の床反力計(Bertec社製)とフットスイッチを据えつけた3次元動作解析装置(住友金属社製)を用いた.対象者に胸骨柄と両側外果に反射マーカーを貼り付け,自由速度での独歩(杖などの歩行補助具を用いていないもの)を課した.両側外果の反射マーカーより歩隔,胸骨柄のマーカーより一歩行周期中における進行方向の平均速度から歩行速度を算出した.また,床反力2回積分法により側方,前後,上下方向への重心移動幅を求め,平均速度を加えることにより総エネルギーの変化量(重心の位置エネルギーと運動エネルギーを合わせた値)を算出した.さらに,総エネルギーの変化量の絶対値を時間で積分することにより一歩行周期に重心に作用する総仕事量を求め,総仕事量を体重と進行距離で除した値(一歩行周期及び体重1kg・進行距離1m当りの重心の仕事量)を,重心移動からみた歩行効率の指標として算出した(以下,WE-1).統計には,歩行障害群と非歩行障害群の各測定項目の比較には対応のないt検定,WE-1の値と3方向への重心移動幅との関連性の検討にはピアソンの相関係数を用い,統計学的有意基準は全て5%未満とした.
【説明と同意】本研究は京都大学の倫理委員会の承認を受け,各対象者に本研究の趣旨と目的を詳細に説明し,同意を得て実施した.
【結果と考察】歩隔は歩行障害群24.0±5.4cm,非歩行障害群18.7±5.8cmであり,歩行障害群は非歩行障害群と比較して有意差には至らなかったものの大きい傾向を示した(p=0.06).歩行速度は歩行障害群38.5±10.0(m/分),非歩行障害群55.1±8.1(m/分)であり,歩行障害群が有意に遅い値を示した(p<0.05).側方の重心移動幅は歩行障害群5.84±1.93cm,非歩行障害群3.50±1.16cm,前後の重心移動幅は歩行障害群1.76±0.88cm,非歩行障害群1.80±0.77cm,上下への重心移動幅は歩行障害群5.11±2.79cm,非歩行障害群3.02±0.99cmであった.歩行障害群は非歩行障害群と比較して,歩行中の側方と上下への動揺性が有意に大きい値を示した(p<0.05).WE-1の値は歩行障害群1.52±0.76(J/kg/m),非歩行障害群0.80±0.29(J/kg/m)であり,歩行障害群は非歩行障害群より52.6%大きい値を示した.これは身体の前進にそれだけ多くの仕事を要したことを意味しており,歩行障害群では非歩行障害群に比べて、歩行において重心移動が効率的に行われていないことが明らかとなった.また,広汎白質病変患者18名のWE-1と3方向への重心移動幅の相関係数は,側方r=0.53,前後r=0.46,上下r=0.82であり,WE-1は側方と上下の重心移動幅と有意な相関関係を認めた.以上から,広汎白質病変患者の歩行の特徴として,歩隔および側方と上下の重心動揺性が大きく,さらに歩行中における動揺性は重心移動からみた歩行効率を低下させる一要因となることが示された.
【理学療法学研究としての意義】広汎白質病変患者は姿勢制御障害により側方と上下の重心動揺性が大きくなり,転倒のリスクも高くなると予測され、その代償機転として歩隔が増加していると考えられる。また,歩行中における動揺性の増加は,重心移動からみた歩行効率を低下させる一要因となることが示された.これらのことは,歩行障害を呈する広汎白質病変患者に対する理学療法プログラムの立案やADL指導を行う際の一助となることが示唆され,理学療法学研究として意義のあるものと考えられた.
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© 2010 日本理学療法士協会
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