理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-137
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一般演題(口述)
変形性膝関節症患者における立ち上がり能力の関連因子の検証
天野 徹哉玉利 光太郎浅井 友詞河村 顕治
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抄録

【目的】
変形性膝関節症(以下,膝OA)は,立ち上がりや歩行時などの疼痛・筋機能の低下・変形による関節可動域制限が主要因となり,移動動作能力の低下が最も問題とされている。我々は先行研究において,膝OA患者における歩行速度の関連因子は膝屈曲筋力,膝伸展筋力,歩行時の疼痛であることを報告した。しかしながら,本邦における膝OA患者の動作能力と関連因子の検証は,いまだ不十分である。今回,膝OA患者の立ち上がり能力に着目し,その関連因子について検討することを本研究の目的とした。
【方法】
2009年3月から5月の間に当院整形外科で膝OAと診断され,保存的治療を実施している53名(男性12名,女性41名;年齢74.6±7.7歳)を対象とした。取り込み基準は,椅子からの立ち上がりが上肢の支持なしで可能な者とした。対象側は疼痛症状が強い側とし,左右同程度の疼痛の場合には膝関節可動域範囲の制限が強い側を対象側とした。研究デザインは横断研究で,立ち上がり能力を評価する指標として5回立ち上がりテスト(Timed Stands Test:以下,TST-5)を使用した。椅子からの立ち上がり動作を用いた評価法には回数法と時間法があるが,今回は回数を規定し時間を計測する回数法を採用した。立ち上がり能力の関連因子として,性別,年齢,Body Mass Index(以下,BMI),患者立脚型変形性膝関節症患者機能評価尺度(以下,JKOM)スコア点,自己効力スケール(以下,K-ASES-J),膝屈曲筋力,膝伸展筋力,大腿四頭筋に対するハムストリングの筋力比(以下,H/Q比),下肢伸展筋力,疼痛の程度(visual analog scale:以下,VAS),膝関節伸展角度,ハムストリング柔軟性(以下,HM柔軟性)の計測および調査を行った。統計学的処理は,TST-5を従属変数とした重回帰分析による多変量解析を行った。説明変数は膝屈曲筋力,膝伸展筋力,H/Q比,下肢伸展筋力,VAS,膝関節伸展角度,HM柔軟性の7項目,交絡因子は性別,年齢,BMI, JKOMスコア点,K-ASES-Jの5項目とした。さらに,説明変数と交絡因子の多重共線性の影響を考慮し,膝屈曲筋力,膝伸展筋力,H/Q比の3つの説明変数を同時に同じモデルに含めることはせず,従属変数に対して3つのモデルを立て解析を行った。統計解析には統計ソフトSPSS(Student Version 16.0)を用い,有意水準は5%とした。
【説明と同意】
本研究は吉備国際大学「人を対象とする研究」倫理規程,『ヘルシンキ宣言』あるいは『臨床研究に関する倫理指針』に従った。対象者には書面および口頭にて本研究の目的と内容に関する説明を行い,書面による同意を得た。また,データの収集,分析,公表では個人情報が特定出来ないように連結匿名化を行った。なお,本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認(承認番号08-14)を得て実施した。
【結果】
TST-5に影響を与える因子は,膝屈曲筋力(p=0.008,偏回帰係数-0.42),膝伸展筋力(p=0.034,偏回帰係数-0.32)と立ち座り時のVAS(p<0.05,偏回帰係数0.26~0.34)であった。すなわち,立ち座り時間の短縮には膝屈曲筋力と膝伸展筋力が高値であること,立ち座り時の疼痛が低値であることが関係していた。
【考察】
膝OA患者を対象に立ち上がり能力の関連因子について検討した。本研究の結果よりTST-5には膝伸展筋力だけではなく,膝屈曲筋力,立ち座り時の疼痛も関連があることが明らかとなった。また,H/Q比がTST-5に有意な関連性がないことから,膝伸展筋力,膝屈曲筋力がどちらか単独で強ければTST-5が短縮されるのではなく,膝関節周囲筋の筋力が全体的に関連する可能性が示唆された。先行研究より立ち上がり能力の関連因子として,身体機能レベルでは膝伸展筋力,足関節背屈角度などの報告がされ,特に膝伸展筋力との関連性が指摘されている。下肢筋力においては,先行研究を支持する膝伸展筋力とともに膝屈曲筋力も立ち上がり能力に関連することが,本研究の結果より示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,膝OA患者の立ち上がり能力には膝伸展筋力だけでなく,膝屈曲筋力と立ち座り時の疼痛も関連があることが明らかとなった。現在,膝OA患者に対する筋力強化運動として主に膝関節伸展筋の運動が実施・指導されている。しかし,本研究の結果より今後,膝屈曲筋力を含めた膝関節周囲筋力と立ち上がり能力についての縦断研究や介入研究を行い,立ち上がり能力との因果関係について検討する必要がある。

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© 2010 日本理学療法士協会
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