理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-112
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一般演題(口述)
健常成人における母趾外転筋エクササイズの効果
羽状角および重心動揺の変化
美崎 定也廣幡 健二木原 由希恵
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抄録

【目的】
母趾外転筋エクササイズ(AHE)による外反母趾角(HVA)の改善効果が報告されているものの、現状では外反母趾の治療においては外科的手術が保存療法と比較して有効であるとされており、保存療法による大きな改善効果を示す必要があると考えられる。我々の超音波画像診断装置(超音波エコー)を用いた研究では、母趾外転筋羽状角(AHPA)の増大とHVAの減少が関連していた。これはAHEによるHVAの改善を裏付けるものであり、羽状角増大を考慮したAHEの必要性を示している。一方で、外反母趾は変形性膝関節症など下肢関節疾患との関連が報告されている。母趾外転筋の作用として、歩行のmid-stanceおよびtoe-offにおける重心動揺制御が報告されていることから、AHEによる効果はHVAの改善だけでなく、他の下肢関節にも及ぶと考えられる。そこで今回の研究の目的は、AHEによる介入を行い、AHPAを増大させることでHVAが増大し、重心動揺が改善するかどうか明らかにすることである。

【方法】
下肢に整形外科的疾患の既往の無い健常成人男女26名(平均年齢±標準偏差:24.2±2.0歳)50足を対象とし、介入(EX)群13名(男性6名,女性7名)25足、対照(CON)群13名(男性6名,女性7名)25足の2群に割り付けた。EX群はAHEによる介入を行い、CON群は特別なエクササイズを行わなかった。AHEは、A期:電気刺激(NMES)による随意性向上期、B期:ゴムチューブによる抵抗運動期の2期に分けて行った。A期ではNMESの一方の電極を内果の後下方、他方を舟状骨付近で母趾外転筋の筋腹にそれぞれ貼付し、刺激頻度50Hz、5秒on-5秒off、耐えられる限りの強度で10分間通電した。通電時には体表から母趾外転筋の膨隆および母趾の外転を確認し、合わせて最大随意外転運動を行わせた。B期では足趾を包むように前足部にゴムチューブを巻きつけ、その抵抗に対して全足趾を最大開排させた。5秒間静止性収縮を保持し、5秒間休息するサイクルを60回実施させた。介入は週3回8週間行い、A期を2~3週続けた後に母趾の自動外転が可能か評価し、可能であればB期へ移行した。測定項目は、1)AHPA、2)HVA、3)重心移動距離の総軌跡長(LNG)とし、介入前および介入後にそれぞれ測定した。AHPAは超音波エコー(Bモード,7.5Hz)を用い、長座位で足部を安楽にした肢位で測定した。舟状骨直下に足底と平行になるようプローブを接触させ、縦断画像を撮影した。深部腱膜と筋束が鮮明に描出された部位を画像上で視覚的に確認し、それぞれのなす角度をAHPAと定義した。安静時(rest)と最大開排時(MVO)それぞれ3回ずつ測定し、MVOをrestで除した収縮率(CNR)を算出した。HVAはフットプリントを用い、静止立位にて測定した。第一中足骨頭と母趾内側、後足部内側をそれぞれ結んだ直線のなす角度をHVAと定義した。LNGは30秒間片脚立位を保持させ、重心動揺計を用いて測定した。左右交互に3回ずつ測定し、得られた数値を身長で除して標準化した。統計解析は、各項目について、介入前後、介入の有無を要因とした反復測定による二元配置分散分析(有意水準5%未満)を行い、有意差が認められた項目においてエフェクトサイズ(ES)を算出した。

【説明と同意】
対象には事前に本研究の趣旨を十分説明し、同意が得られた者のみ測定を実施した。

【結果】
CNRは介入前EX群127.4±15.7(平均値±標準偏差)、CON群129.8±13.4、介入後EX群133.0±17.6、CON群122.2±12.4であり、有意にEX群が増大した(P=0.018,ES=0.11)。LNGは介入前EX群70.4±13.4、CON群66.3±12.5、介入後EX群63.7±13.6、CON群64.1±16.5であり、有意にEX群が減少した(P=0.027,ES=0.10)。rest AHPA(P=0.230)、HVA(P=0.692)は、2群間において介入前後で有意差は認められなかった。

【考察】
本研究において8週間のAHEにより片脚立位でのLNGが減少する結果となった。これは先行研究と同様の結果であり、母趾外転筋の収縮率が向上することで足部内側アーチの支持性が高まりLNGを減少させていると考えられる。またLNGに及ぼす効果は中程度であることから、本研究でのAHEは理学療法介入として有効な方法であると考えられる。一方で、AHPAの増大によるHVAの改善には至らなかったことについては、大腿四頭筋、下腿三頭筋など体重支持に主要な役割を果たす筋群とは異なり、トレーニングの期間、頻度、強度、収縮様式においてAHEに適切なプロトコールを設定する必要があると考えられる。また本研究の対象者のHVAが正常値を示す者が多かったことも要因であると推察され、今後はHVAが重度の者を対象に研究を行う必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
AHEにより足部の支持性を高めてLNGを減少させることで、変形性膝関節症などの下肢関節疾患の理学療法に応用することが出来ると考えられる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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