理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-111
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一般演題(口述)
スランプテスト施行時の膝関節伸展角度に影響する因子の検討
三浦 雅文柴 ひとみ
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抄録
【目的】スランプテストはニューロダイナミクスという考え方に基づいて行われる神経系モビリゼーションの検査である。ニューロダイナミクスとは筋骨格機能に統合される、相互に関連する神経系の基本的な力学と生理学の臨床応用と定義されている。スランプテストの目的は神経の連続性という性質を利用し、徒手的に神経系の問題と他の組織由来の問題を鑑別することである。Maitlandらは多数の無症候健常者に対してスランプテストを行い、その反応を整理し正常反応として報告している。スランプテストの正常反応は不快な反応や痛みだけでなく、膝や足関節の関節可動域に制限を引き起こす。本研究はこのようなスランプテストによる関節可動域の制限が神経以外の何らかの因子によって影響を受けていないか調査することを目的とした。
【方法】無症候健常者57名114肢を対象とした。テスト施行中に陽性徴候を疑う反応を示した者は除外した。調査項目は年齢、性別、既往歴、身長、体重、指床間距離(以下FFD)、端坐位での自動膝伸展運動時の角度(以下端坐位ROM)、スランプテストで神経に最大伸張が加わっている時の膝伸展角度(以下フルスランプROM)、スランプテストの全体を通して反応が生じた部位の数(以下反応数)とした。スランプテストは以下のように行った。まずステージ1で端坐位となり上肢を骨盤後方で組む姿勢を開始肢位とし、ステージ2で骨盤中間位を維持したまま胸腰椎のみを完全に屈曲、ステージ3で頚椎を完全屈曲、ステージ4で右膝を最大伸展させ、ステージ5で右足関節を最大背屈させた。ステージ6では屈曲させていた頚椎を伸展させ終了とし、その後右の膝と足関節を端坐位時の最初の位置に戻し、ステージ3から同様に左下肢を行った。運動は自動運動で行い、検者は代償を許さないように注意深く観察し、適度な力で固定した。関節角度の計測にはデジタルゴニオメーター(DKH社製トライアスシステム)を用い、テスト施行中の膝関節角度を記録した。分析はフルスランプROMを目的変数とし、年齢、性別、既往歴、身長、体重、FFD、端坐位ROM、反応数を説明変数として重回帰分析のステップワイズ法を行い、スランプテストでの膝関節伸展角度に影響する因子があるかどうかを調査した。解析にはPASWstatisticsを用い、有意水準は1%とした。
【説明と同意】事前に倫理委員会の承認を受け、対象者には目的やテストの手順と安全性、個人情報の扱い方などに関して説明し同意を得てから行った。
【結果】平均年齢34.93±13.88、男性58名、女性56名、既往歴有40名、無74名、平均身長162.79±8.64、平均体重56.25±12.76、FFD平均値4.37±3.86であった。膝関節伸展ROMについては最大伸展時の角度を屈曲角度で記載した。その結果平均値は端坐位ROM4.0±3.8°、フルスランプROM9.5±7.0°であった。反応が生じた部位数は大腿部後面85名(右42名、左43名)、下腿後面85名(右41名、左44名)、足部2名(右1名、左1名)、体幹15名であった。フルスランプROMと有意な相関を示したのは端坐位ROM(r=0.69、p<0.01)と身長(r=0.43、p<0.01)であった。重回帰分析の結果スランプテストROMに影響している因子として、端坐位ROM(標準回帰係数β=0.49)と身長(標準回帰係数β=0.49)の2項目が抽出された。得られた回帰式の重相関係数はr=0.73、決定係数はR2=0.54であった。
【考察】スランプテスト施行時の膝関節伸展可動域の制限には、端坐位での伸展可動域と身長が影響していた。端坐位での可動域が関連しているのは当然の結果である。膝関節の運動には神経以外の組織の影響も複合的に生じており、スランプテストを施行中にこれらの因子が取り除かれるわけではない。神経は隣接する構造(メカニカルインターフェース)の運動に対して、「伸張」と「滑り」の2つの方法で適応している。脊柱の屈曲運動に伴う脊柱管の長さは5~9cm増加すると言われており、脊髄はそれに適応して伸張や滑り運動をしていることが、死体を用いた研究によって明らかにされている。臨床症状ではこれらの神経の動きが反応に関わっていることは理解しやすいが、関節の運動制限に関してどの程度影響するかは明らかではない。本研究の結果は身長が高いとメカニカルインターフェースの領域が増え、神経はそれに適応するようにより強い引き伸ばしと長い距離における滑りを起こす必要があることを示唆している。一方では関節可動域制限と反応を生じた部位の数には関連が見られず、安易に痛みや伸張感といった反応と結び付けて考察することはできないことも分かった。
【理学療法学研究としての意義】神経モビリゼーションの分野では神経バイオメカニクスに関する研究は多数みられるが、スランプテストの検査の臨床反応についての研究は少なく、本研究はパイロットスタディとして有意義であったと考える。
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© 2010 日本理学療法士協会
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