理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-133
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一般演題(口述)
手術療法を施行した高齢頸椎症性脊椎症例の歩行能力改善についての検討
若林 啓子内山 覚栗原 美智土田 典子山本 信行太田 隆
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キーワード: 頸椎症性脊髄症, 手術, 歩行
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抄録
【目的】人口の高齢化にともない頚椎症性脊髄症(頚髄症)の発生頻度は増加傾向にある。同時に麻酔科学や内科治療の進歩、脊椎手術方法の進歩などにより、高齢者でも頸椎手術を希望する症例が増えており、理学療法を施行する機会も多い。頚髄症による症状は運動機能障害、感覚機能障害、膀胱直腸障害など多岐にわたるが、歩行を中心とした運動機能障害の回復を期待して手術を決断する症例は決して少なくない。手術による症状の改善度は、罹病期間、年齢、術前の重傷度などの影響を受けることが予想され、高齢者ほどその機能的予後は悪いとされているが、その基礎資料は必ずしも豊富ではなくその特徴は明らかでない。そこで、今回我々は、高齢頚髄症における手術前後の変化を、歩行機能の改善を中心に検討したので報告する。
【方法】対象は、2004年から2009年までに当センターに頸椎症性脊髄症の診断で入院し、頸椎椎弓切除術または脊柱管形成術を施行した67例のうち、退院時に自立歩行が可能であった54例(平均年齢74.3±8.9歳、男性27例、女性27例)とした。理学療法は手術前より開始し、退院までの平均実施期間は42.2±15.8日であった。入退院時に歩行能力(自立度、最大継続距離、10m歩行所用時間、10m歩数)、下肢筋力(膝伸展筋力)、立位姿勢保持能力(重心動揺検査)、バランス能力(Timed up and go:TUG)を評価し、それらの変化を検討した。膝伸展筋力はミナト医科学社製膝関節筋力測定装置(COMBIT)を用い等尺性筋力を測定した。重心動揺検査はアニマ社製重心動揺計(ツイングラビコーダーG-6100)を用いて測定した。
【説明と同意】手術の決定や理学療法への参加に際しては、充分な説明と同意のもとに実施された。
【結果】入院時のADLは、寝たきり2例(3.7%)、Bed上生活3例(5.6%)、車椅子移乗自立13例(24.1%)、 室内歩行自立20例(37.0%)、屋外歩行自立16例(29.6%)であり、歩行自立度は66.7%であったが、退院時は室内歩行自立32例(59.3%)、屋外歩行自立22例(40.7%)と術後有意に改善を認めている。最大歩行継続距離は入院時291.9±211.9mから退院時424.1±151.0mと改善を認めた。10m歩行所用時間の変化は入院時歩行可能であった32例について検討すると、12.6±7.5秒から10.1±4.2秒と改善していた。10m歩数も同様に22.1±8.4歩から19.8±5.8歩と改善を認めた。膝伸展筋力は入院時1.4±0.6Nm/kgから退院時1.3±0.5Nm/kgであり、改善を認めなかった。重心動揺検査は、入退院時ともに実施可能であったものは閉眼16例、開眼17例であり、外周面積は閉眼7.1±7.8cm2から 5.0±3.1 cm2、開眼9.0±14.7 cm2から5.0±2.5 cm2、総軌跡長は、閉眼84.1±45.4cmから80.5±60.9cm、開眼68.7±52.4cmから64.4±34.9cmと改善傾向は伺えたものの、有意差を認めなかった。TUGは18例が測定可能であり、10.6±5.2秒から8.7±2.6秒と改善を認めた。
【考察】本邦の人口高齢化は世界的にも顕著であり、それに伴い頸髄症例も増加している。加えて高齢者の活動性も高まっており、高齢者であっても頸椎症性脊椎症に対し手術療法を選択する機会も増えている。しびれや疼痛、感覚障害、膀胱機能障害なども手術決断のきっかけとして重要であるが、歩行能力が低下し自立歩行が不能になることはADLの低下と直結し、にわかに要介護状態になることが予想されるため、手術を決断する大きな理由となっている。手術後の歩行能力の改善は多くの患者の要望であり、その改善度を知ることは意義深いものと考えられる。本研究では、運動機能のうち特に歩行能力の改善度を明らかにすることを目的としたため、対象を退院時に歩行能力評価が可能であった症例に限定して検討した。その結果、歩行自立度、最大歩行継続距離、歩行速度、歩幅のすべてにおいて改善を認め、手術療法が歩行能力を著しく改善させることを示している。一方で下肢筋力の改善は明らかでなく、手術により狭窄が解除されたことが直ちに筋力を改善させることには結びついていなかった。このことから、筋力の回復には狭窄の解除だけでなく、一定期間のトレーニングが必要であることが推測できる。姿勢保持能力は重心動揺計を用いて評価し、個々の症例では一定の改善の認めたものの、検査の実施率は閉眼29.6%、開眼31.5%と極めて低率であり症例数が少なかったため有意差は認めなかった。このたびの結果からは、高齢の頸髄症においても手術による歩行能力の回復は確認することができたが、筋力の短期的回復や姿勢保持能力の改善は明らかでなく今後検討の必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】頚髄症に対する手術および術後理学療法を歩行能力改善の観点から評価した。歩行能力の改善は多くの患者の要望であり、その程度を知ることは非常に興味深いことと思われる。
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© 2010 日本理学療法士協会
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