理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-149
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一般演題(ポスター)
ストレッチポールを用いたPelConプログラムが慢性非特異的腰痛に及ぼす効果
新谷 大輔古川 由美子杉野 伸治蒲田 和芳
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抄録
【目的】
非特異的腰痛の運動療法に関するエビデンスは確立されていない。日本コアコンディショニング協会と蒲田が考案した骨盤コンディショニングプログラム(PelCon)は、骨盤のリアライメント(対称化)および安定化を目的とするストレッチポールを用いる運動プログラムである。その効果として、骨盤アライメント対称化(本学会応募演題)、下肢筋力発揮の左右差の減少(増田, 2009)、股関節屈曲可動域の改善(未発表データ)などが得られる。本研究では、PelConが非特異的腰痛患者の症状軽減に効果的であるか否かを検証する。研究仮説は、PelConは既存の運動療法プログラムよりも非特異的腰痛症の症状軽減、アライメント改善に効果的である、とした。
【方法】
本研究プロトコルは広島国際大学と済生会みすみ病院(当院)の倫理委員会の承認を得た。リクルートは、当院内にて非特異的腰痛を有している者を募集し、アンケート用紙の記入および同意書への署名を確認したうえで対象者として採用した。選択基準は、(1)20歳から60歳までの男女、(2)過去1カ月以上症状が持続している腰痛を持つ者、(3)すべての測定および介入に参加可能な者、(4)すべてのプロトコルおよびリスクを理解して同意書に署名した者の全てを満たす者で、他に定めた除外基準を有しない者とした。そして、集まった被検者20名をPelCon群(P群)とコントロール群(C群)とに無作為に割り付けた(P10名,C10名:ともに男性5名,女性5名)。介入期間4週間とフォローアップ期間4週間を設け、介入前・介入後・フォローアップ後で観察因子を計測した。調査項目は年齢、身長、体重の基本項目に加え、頭部の前方突出・肩甲骨の外転(右・左)・体幹の前屈開始位置・体幹の前屈角度・体幹の後屈開始位置・体幹の後屈角度・体幹の側屈(右・左)・股関節の開始位置(右・左)・股関節屈曲角度(右・左)・SLR(右・左)・股関節開排(右・左)・疼痛(立位・前屈時・後屈時)を計測した。検定にはベースラインには対応のあるt検定を、アウトカムには反復測定分散分析とFisher's PLSD法を用い、有意水準をp=0.05とした。
【説明と同意】
全ての被検者によりヘルシンキ宣言に基づき同意を得た。なお同意は、説明書を用い一人ずつ個別で行った。
【結果】
ベースラインの検定では基本項目と検討項目の全ての項目において有意差を認めなかった。P群とC群の差の検定では、頭部の前方突出(p=0.0206)、体幹前屈角度(p=0.0182)、SLR右(p=0.0155)、前屈時の疼痛(p=0.0147)で有意差を認め、いずれもP群の効果が優れていた。SLR左については有意差を認めなかった(p=0.0950)。その他の項目については、すべて有意差を認めなかった。
【考察】
本研究の結果、前屈時の腰部痛、頭部アライメントの後方化、体幹前屈角度およびSLRの改善が得られた。頭部アライメントについては、先行研究において得られた脊椎矢状面アライメントの変化(杉野2006)、胸郭可動性改善(秋山 2007)、胸郭スティッフネス低下(伊藤 2008)などにみられる一連の脊椎・胸郭リアライメント効果を支持する結果であった。SLRおよび体幹前屈角の改善については、過去のストレッチポールの研究では得られていない結果であり、PelConに特異的な効果である可能性がある。前屈時の腰部痛の軽減については、ストレッチポールの効果としては初めて疼痛改善効果が確認されたことになり、腹横筋活動の活性化(新谷2009)などの影響も考慮しつつ、今後その効果発現のメカニズムについての研究が必要である。
本研究の対象者は、非特異的慢性腰痛を有する病院業務従事者を対象とした。検者を盲検化した無作為化対照研究である。介入に対する対象者のコンプライアンスは高く、研究計画書通りの介入が実施された。以上より、内的妥当性は高く、信頼性の高い研究といえる。一方、外的妥当性については、軽症の非特異的腰痛者以外に本研究の結果を適応することは適切とは言えない。
本研究の対象者は、全例に共通して比較的軽症であったが、研究期間中もすべての業務を継続しながら症状が軽減されたことは注目すべきである。今後、看護や介護業務従事者などへの応用が期待される。
【理学療法学研究としての意義】
PelConは骨盤リアライメントとインナーユニット機能を改善し、有効な腰痛改善プログラムとなる可能性がある。特に前屈で疼痛を訴える非特異的腰痛に対して効果が高い可能性が示唆された。
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© 2010 日本理学療法士協会
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