理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: Sh2-017
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主題演題
維持血液透析患者の下肢筋力と移動手段および自覚的歩行限界時間との関係
下肢筋力や自覚的歩行限界時間を用いた移動手段の評価と運動療法の目標値について
伊藤 晃範鷲頭 由宜松浦 芳和江渡 奈保子高田 尚幸大野 正博林 大二郎中村 友唯香澤田 恵里香沼波 香寿子湯藤 裕美古井 秀典久木田 和丘
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抄録

【目的】
維持血液透析(HD)患者の運動機能は同年代の健常者と比較して著しく低下している。また、HD患者の高齢化に伴い、杖や歩行器などの歩行補助具を使用しているHD患者や、院内歩行が困難となり車椅子を使用しているHD患者も増加している。そこで本研究は、HD患者の移動手段における下肢筋力値と自覚的歩行限界時間を調査し、下肢筋力値と自覚的歩行限界時間から移動手段の評価や運動療法の目標値設定が可能か否かを検討した。

【方法】
対象は、切断や脳卒中を合併していない当院HD患者53例(男性24例・女性29例、平均年齢71.3±13.71歳)。
方法は、下肢筋力として等尺性膝伸展筋力を、等尺性筋力計ミュータス(μTas F-1:ANIMA)を用い測定し、体重比(%BW)を算出した。また自覚的歩行限界時間については、「頑張って休みなしで何分間歩けるか」について聞き取り調査をした。移動手段については、歩行ができない「車椅子群」、杖や歩行器などの歩行補助具を使用している「杖・歩行器群」、手放しで歩行をしている「独歩群」の3群に分け、%BWと自覚的歩行限界時間について比較・検討をした。
統計学的処理については、Non-repeated Measures ANOVA、Student-Newman-Keuls test、regular correlationを用い、有意水準は1%未満とした。

【説明と同意】
対象に対して、本研究の趣旨を説明し、同意を得て実施をした。

【結果】
%BWの平均値は、29.44±20.06%。自覚的歩行限界時間の平均値は、24.72±28.86分であった。%BWと自覚的歩行限界時間において正の相関を認めた(r=0.77)。
移動手段別の比較において、%BWは、「車椅子群」4.74±5.15%、「杖・歩行器群」22.24±8.62%、「独歩群」42.54±14.79%で、有意な差を認めた(p<0.01)。自覚的歩行限界時間は、「車椅子群」0.38±1.39分、「杖・歩行器群」12±5.87分、「独歩群」39.5±30.58分で、有意な差を認めた(p<0.01)。
%BWが15%未満で自覚的歩行限界時間が5分以下の対象においては、歩行が困難で車椅子を使用しており、%BWが40%未満で自覚的歩行限界時間が20分以下の対象においては、杖や歩行器を使用している結果であった。
%BWと自覚的歩行限界時間との関係おいては、%BWが15%未満では自覚的歩行限界時間は5分以下が93.33%を占めており、%BWが40%未満では自覚的歩行限界時間は30分以下が97.37%を占めていた。%BWが40%以上では、自覚的歩行限界時間は30分以上が88.34%占めていた。

【考察】
膝伸展筋力が40%BWを下回り自覚的歩行限界時間が30分以下の場合は、杖や歩行器の検討が必要で、膝伸展筋力が40%BWを下回り自覚的歩行限界時間が20分を下回る場合は、杖や歩行器が必要であることが示唆された。HD患者を対象とした先行研究においても、膝伸展筋力が39%BWを下回ると73%の患者が移動能力の低下を示すと報告されており(忽那ら、2009)、今回の結果は妥当と思われる。また、%BWが15%BW未満で自覚的歩行限界時間が5分以下を示す場合は、歩行困難で車椅子を使用しており、HD患者における移動手段の評価や運動療法の目標値として膝伸展筋力「15%BW」と「40%BW」は有用である可能性が示唆された。

【理学療法学研究としての意義】
2008年末の慢性透析患者数は28万人を越えており、歩行能力の低下を認めるHD患者も増加傾向にあります。その中で、膝伸展筋力から移動手段の評価や運動療法の目標値を検討することは、HD患者に対する運動療法を確立していく上で重要であると考えます。

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© 2010 日本理学療法士協会
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