理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-186
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一般演題(口述)
急性心筋梗塞患者に対する回復期心臓リハビリテーションが体組成変化に及ぼす影響
内藤 裕治加藤 倫卓緒方 陽子町田 ゆり子光地 海人川端 さおり小鹿野 道雄田邊 潤梅本 琢也
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抄録

【目的】
虚血性心疾患患者における二次予防の目標のひとつに体重管理が挙げられ,体重変化の主な要因である内臓脂肪の増減は,耐糖能異常,脂質異常症,および高血圧の冠危険因子と関連することが報告されており,体重に加え体脂肪量や骨格筋量を含めた体組成変化を評価することが重要となる.これまで,回復期心臓リハビリテーション(心リハ)継続による体組成変化の報告は少なく,特に心リハ非継続者との比較による体組成への影響は十分明らかとなっていない.そこで本研究では,急性心筋梗塞(AMI)患者において退院後の体重,体脂肪量および骨格筋量の変化について,回復期心リハ継続者と非継続者で比較し,心リハ継続における体組成への影響とその効果を明らかとすることを目的とした.
【方法】
対象はAMIを発症し,当院にて急性期治療後に入院期心リハを受けた86例とした.さらに対象を回復期心リハを継続した継続群51例(平均年齢61.2歳,男性率90%,BMI24.2)と,回復期心リハを継続しなかった非継続群35例(平均年齢59.3歳,男性率86%,BMI24.3)の2群に分類した.除外基準は,年齢75歳以上の患者,ならびに退院後4ヶ月以内に再入院した患者とした.測定項目と測定内容は,患者背景因子として年齢,性別,入院時の左室駆出率,在院日数および合併症を診療録より調査した.体組成は,体成分分析装置(In Body3.2,Biospace)を使用し,体重,骨格筋量および体脂肪量を測定した.また,運動療法継続の効果判定として,心肺運動負荷試験により最高酸素摂取量(Peak V(dot)O2)を測定した.体組成とPeak V(dot)O2の測定時期は,退院時と退院後4ヶ月時とした.継続群の運動療法内容は,監視型として嫌気性代謝閾値の心拍数を指標とした有酸素運動に加え,上下肢レジスタンストレーニング(RT)を週1回の頻度で実施し,非監視型では週2回以上の有酸素運動を指導した.なお,入院期に栄養士から栄養指導が行なわれた.統計学的解析として継続群と非継続群における患者背景因子の比較は対応のないt検定とχ2検定を用いた.体組成ならびにPeak V(dot)O2の変化の検討は,二元配置分散分析を用いた.統計学的有意水準を5%未満とした.
【説明と同意】
すべての対象患者に対し本研究の目的を十分に説明し,解析データの使用について同意を得た.
【結果】
患者背景因子については継続群と非継続群の間に差を認めなかった.体重と体脂肪量に有意な交互作用を認め(F=13.77:P<0.01,F=12.08:P<0.01),非継続群における退院後4ヵ月時の体重は,退院時と比較し有意な増加(p<0.01)を認めたのに対して,継続群では体重と体脂肪量に有意な減少(p<0.05,p<0.01)を認めた.また,骨格筋量については変化を認めなかった.Peak V(dot)O2の変化は,有意に交互作用を認め(F=7.64:P<0.01),リハ非継続群では退院時から退院後4ヶ月時にかけて有意な変化を認めなかったのに対し,リハ継続群では有意な増加(p<0.05)を認めた.
【考察】
AMI患者に対する退院後4ヶ月間の回復期心リハ継続により,体重と体脂肪量に有意な減少を認めた.体脂肪量の減少は,運動療法の実施に加え定期的な体組成測定と測定結果のフィードバックにより,体重管理に対する運動療法と食事療法の意識付けをより強固にしたことが要因として考えられた.また,骨格筋量に関しては有意な増加を認めず維持に留まったが,この原因としてRTの頻度,負荷設定が十分でなかったことが考えられた.しかし一般的に,食事療法のみの減量では筋肉量を含む除脂肪組織量の減少を招くとされている.本研究においては,体重減少にも関わらず骨格筋量は維持されていたことにより,食事療法に加えて運動療法の確実な実施による効果的な体重減少がなされたことが示唆された.AMI患者において,回復期の体重減少は心血管イベント率を抑制することが報告されていることからも,本研究は心リハの二次予防への効果を示すものであり,回復期心リハの参加と運動療法の継続の重要性が示唆された.
【理学療法学研究としての意義】
体重管理は強力な栄養指導介入の下で効果があるといわれているが,運動療法主体の心リハにおいても体重が減少することが明らかとなり,理学療法士が二次予防を前提とした体組成への積極的な関与を提示できる.

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© 2010 日本理学療法士協会
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