理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-188
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一般演題(口述)
上腹部手術における起立性低血圧の予測因子
胃腫瘍手術後における検討
山内 康太島添 裕史鈴木 裕也石村 博史東 秀史
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抄録

【緒言】
上腹部手術における呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)の有用性はメタアナリシス分析にて証明されている.当院での周術期呼吸リハは早期離床を中心としたプログラムを実施している.しかし,術後早期は循環動態が安定していないため,起立性低血圧をしばしば認め,離床の阻害因子や転倒のリスクとなる.今回,胃腫瘍手術後における起立性低血圧の発症率と予測因子を調査した.
【対象・方法】
2004年4月から2009年8月までに当院において,胃腫瘍にて胃部分切除および胃全摘術を受け,呼吸リハが行われた140例(平均68.7±9.4歳)を対象とした.
呼吸リハは術前から介入し,手術翌日より早期離床を行い,術後3~4日目より退院まで運動療法を行った.離床の手順は背臥位からギャッチアップ坐位,端坐位,起立と段階的な離床を行い,各段階時にバイタルサインを確認した.起立性低血圧は自律神経学会における基準に概ね従い判断し,術後1日目における起立性低血圧の発生率および予測因子を調査した.起立性低血圧の有無を従属変数とし,術前因子[年齢,性別,身長,体重,BMI,虚血性心疾患・脳血管障害・糖尿病・高血圧症・呼吸器疾患・腎疾患・心不全・末梢血管障害の有無,Performance Status,喫煙指数,TP,Alb,Hb,Ht,T-Cho,TG,肺機能,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数],術中因子[術式(開腹胃切除,開腹胃全摘,腹腔鏡補助下胃切除),手術時間,出血量,術中輸液量,術中尿量,血液製剤の使用有無,術中in-outバランス,術中低血圧(SBP<90mmHg)の有無],術後因子[術後輸液量,尿量,排液量,術後in-outバランス,WBC,CRP,TP,Alb,Hb,Ht,体温,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数,術後鎮痛法(硬膜外PCA,静脈内PCA,無),硬膜外麻酔の種類(電動,ディスポーザブルポンプ),NSAIDs使用の有無および使用目的,体重変化(術後体重-術前体重)],術中・術後因子[術中から術後1日目におけるin-outバランス]の各因子を独立変数として単変量解析と多変量解析を行った.単変量解析にて有意であった因子を独立変数として多重ロジスティック回帰分析を行い,危険率5%を有意水準とした.
【説明と同意】
本研究は当院における個人情報保護規定に基づき診療録を後方視的に患者が特定できないようにID化し調査した.
【結果】
起立性低血圧の発症例は49/140例であり,発症率は35%であった.単変量解析では術前因子として糖尿病,虚血性心疾患,TP,Performance Status,術中因子は出血量,術中低血圧,術後因子はWBC,CRP,TP,Alb,収縮期血圧,拡張期血圧が有意であった.多変量解析の結果は糖尿病の有無(OR=2.93,95%CI:1.146~7.489,p=0.025),虚血性心疾患の有無(OR=2.69,95%CI:1.055~6.868,p=0.038),CRP(OR=1.251,95%CI:1.043~1.501,p=0.016),術後TP(OR=0.433,95%CI:0.224~0.834,p=0.012),術後収縮期血圧(OR=0.981,95%CI:0.963~1,p=0.045)であった.
【考察】
起立性低血圧の予測因子は術前因子として虚血性心疾患の有無,糖尿病に伴う自律神経障害が強く関連していた.術後因子としてはCRP,TP,術後収縮期血圧が有意差を認めた.これは術後の炎症反応により血管透過性亢進による蛋白などの血管外漏出により水分がthird spaceへ移行しhypovolemiaとなり起立性低血圧を認めたと考えられる.今回,薬剤,輸液組成,疼痛など循環動態に影響する因子を検討していないため本研究の制限となる.
【理学療法学研究としての意義】
周術期における起立性低血圧の要因を把握することで安全かつ最大限のリハビリテーションを提供することが可能となる.

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© 2010 日本理学療法士協会
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