理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-189
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一般演題(口述)
リラクセーション肢位の変化が呼吸運動出力に与える影響
一場 友実八並 光信山田 拓実宮村 章子解良 武士
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抄録

【目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者では、低酸素血症、呼気時気道閉塞現象、横隔膜の平低化などが原因で起こる呼吸困難が大きな問題であり、呼吸リハビリテーションの大きな目標のひとつにこの呼吸困難の軽減があげられている。様々な方法や手技が呼吸リハビリテーションに用いられるが、リラクセーション手技は呼吸困難やパニックコントロールとしてごく基本的な手段であるといえる。呼吸困難の軽減に効果的なリラクセーション肢位としては様々な肢位が用いられるが、これらの肢位の差異について検討した研究はみられない。呼吸困難の感知モデルとしてKillianらのmotor command theoryやCampbellとHowellの長さ‐張力不均衡説などでは、呼吸運動出力と呼吸困難が密接に関係していることが説明されている。本研究は代表的なリラクセーション肢位について、呼吸運動出力の指標である気道閉塞圧(P0.1)と心拍変動の値から求められる自律神経指標を用いて、その差異について検討を行うことを目的とする。
【方法】対象者は呼吸器疾患、循環器疾患、整形外科疾患、神経筋疾患の既往のない健常大学生男女11名(男性5名、女性6名、年齢20.3±0.47歳)であった。呼吸運動出力の指標としてP0.1を気道閉塞装置(Inflatable ballon-type Series 9300,)と差圧トランスデューサーを用いて測定した。気道閉塞装置に流量計とマスクを接続し、対象者の口に固定した。また心拍数の測定にはモニター心電図を用いた。流量計、圧トランスデューサー、心電計の信号はすべてAD変換器を介してパーソナルコンピューターに取り込んだ。測定肢位は垂直立位、端座位、枕を抱え机に前傾する前傾座位、ベッドの背もたれを30度挙上し膝軽度屈曲位のセミファーラー位の4肢位とし、順序はランダムとした。5分間それぞれの肢位で安静を維持し最後の1分で任意の時にP0.1を5回測定した。この測定時間に一回換気量、呼吸数、酸素摂取量、二酸化炭素排出量を測定し、P0.1 /(VT / TI)を算出した。また解析ソフト(HRV module Powerlab,ADInstruments社製)を用いて、心拍変動(以下HRV)による自律神経機能の評価を行った。統計処理にはSPSS(Windows版 ver13.0,SPSS)を用いた。各肢位による影響は反復測定による分散分析を行い、その後の検定としてTukey-Kramerの多重比較を行った。
【説明と同意】すべての対象者に研究の趣旨を説明しインフォームド・コンセントを得た。また得られたデータはすべて統計量に変換した上で、暗号化されたUSBで保管し、個人情報の流失防止に配慮した。
【結果】P0.1は座位で2.48±0.8cmH2O、セミファーラー位で1.88±0.5 cmH2Oとセミファーラー位が有意に低値を示した。また心拍数はセミファーラー位で66.7±11.9回/分と最も低値を示し、立位の心拍数 は81.6±10.0回/分と他の座位、前傾座位を含めた3肢位に比して有意に高値であった。また心拍変動に関しては座位とセミファーラー位の低周波成分は 45.4±28.6nu、21.8±13.0nu、高周波成分は50.5±26.1nu、75.7±12.6nuと両成分ともに座位とセミファーラー位で有意差が認められた。1回換気量、呼吸数、P0.1/(VT / TI)、酸素摂取量、二酸化炭素排出量には有意差は認められなかった。
【考察】呼吸困難の感知モデルのうち、KillianらやCampbellとHowellのものは、呼吸運動出量の増加や、その増加に見合う換気量の増大がないと呼吸困難として感じるというものである。今回の結果では、姿勢の違いによって呼吸数、一回換気量、分時換気量などの換気諸量には変化を認めなかった。しかしながら座位に比してセミファーラー位で有意にP0.1が低値を示し、心拍変動による自律神経解析からセミファーラー位で副交感神経活動が亢進していることが推定された。さらに心拍数においてもセミファーラー位が有意に低値を示していること、対象者の主観的にも他の肢位に比してセミファーラー位が最も安楽であったことなどから、他の肢位に比してセミファーラー位でよりリラクセーションが図れたものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】今回の研究では、呼吸器疾患を有さない健常若年男女を対象としたため、本結果がCOPDなどの呼吸困難がある患者にも適応されるかは不明である。しかしながら今回肢位変化によりP0.1の変化が認められた。今後は実際に呼吸困難のある患者を対象に呼吸リハビリテーションに用いられているリラクセーション肢位に関して更なる検討を加えて行きたいと考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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