理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-190
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一般演題(口述)
非小細胞肺癌に対する胸腔鏡下肺葉切除術におけるFast-Track Rehabilitationの実現可能性と安全性
入江 将考濱田 和美奥村 隆志徳渕 浩中川 誠中西 良一
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抄録

【目的】
Fast-Track Rehabilitation(FTR)とは,低侵襲手術を軸に,術前患者教育,疼痛管理,早期ドレーン抜去,早期離床及び運動療法などにより,患者の術後回復を高めるための多職種による周術期管理のことである.とりわけ理学療法士においては,術後合併症の予防や早期離床の獲得のみならず,早期社会復帰や術後補助化学療法のために,運動耐容能やPerformance Status(PS)を維持・回復させることが重要となる.本研究の目的は,当院における非小細胞肺癌に対する胸腔鏡下肺葉切除術(Video-Assisted Thoracic Surgery lobectomy:VATS lobectomy)におけるFTRの実現可能性と安全性を,術後アウトカム,運動耐容能,PSの面から検討することにある.
【方法】
2005年6月から2009年10月に当院において,VATS lobectomyならびにFTRを受けた非小細胞肺癌150例を対象とした.FTRプログラムは,術前オリエンテーション(早期離床や運動療法の重要性を教育)から介入し,術後においては術後1病日(POD1)より病棟での早期離床(起立・歩行訓練)を行い,POD2から退院前までは,理学療法室での下肢筋力増強訓練(起立-着席訓練)や持久力トレーニング(エルゴメーター/トレッドミル)を中心に,午前・午後と1日2セッションの運動療法を行った.運動耐容能の評価として術前,POD2,POD7,および退院時に6分間歩行試験を行った.また,retrospectiveに術後の経過やアウトカム,運動耐容能及びPSの推移を調査した.なお術前併存疾患の評価には,Charlson Comorbidity Index(CCI)を用いた.
【説明と同意】
本研究は対象者全員に十分な説明を行い,同意を得た上でFTRを実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った.また,当院の研究審査委員会の承認を得た.
【結果】
対象者の年齢は,69.2±9.9歳(42~90歳,男性:女性=98:52)で,75歳以上は51例(34%)を占めていた.術前PSは,PS=0:113例,PS=1:35例,PS≧2:2例であった.FTRに起因した有害事象は0件であり,4例(うつ病:2例,脳梗塞にて転院:1例,呼吸不全による在院死:1例)を除く146例(97.3%)がプログラムを完遂した.術前併存疾患に関しては,全く有さなかった症例は28例(18.7%)のみで,CCIによる内訳では,0~1点:100例(66.7%),2~3点:43例 (28.7%),4点以上:7例(4.6%)であり全体の1/3が2点以上であった.術後在院日数の中央値は9日間で,早期離床獲得率(POD1での歩行)は91.2%で,胸腔ドレーンは95例(63.8%)がPOD1に,18例(12.1%)がPOD2に抜去されていた.術後合併症に関しては,なし:117例(78%),エアリーク遷延(≧7日):14件,心房細動:12件,肺炎:6件,再手術(肺胞瘻閉鎖術):3件,その他:9件であった.6分間歩行距離は,術前:456.5±99.8mで,術後の回復率(%術前比)は,POD2:60.1±25.0%,POD7:86.3±19.3%,退院時:89.2±19.0%であった.退院時のPSは術前値に比し±0が90%で,1ポイント低下が14例,2ポイント低下が1例であった.
【考察】
FTRの目的は,手術の低侵襲化に伴い,患者の術後回復を最大限に高めることにある.従って理学療法士には,チームアプローチの下,合併症予防や早期離床獲得に留まらず,速やかな運動療法導入により,運動耐容能を早急に回復させることが求められる.VATS lobectomyは低侵襲であるため,手術適応がhigh-risk症例にも拡大され得る.本研究においても対象者は,高齢で併存疾患を多く有する傾向にあった.しかしながら,術後は約90%で早期歩行が実践され,運動耐容能はPOD2には約60%,POD7以降で約90%の回復が認められた.腫瘍学的には,術後補助化学療法はPS不良例には施行できないため,PSを維持させることが肝要となる.今回,全体の90%で術前PSを退院時にも維持させており,FTRは術後補助化学療法の速やかな導入の一助にもなっていることが示唆された.今回の結果から,FTRは有害事象を招くことなく,高い完遂率を示し,安全かつ実現可能であることが示された.
【理学療法研究としての意義】
外科術後における理学療法の従来の目的は,呼吸理学療法による肺合併症の予防や早期離床の獲得とされていることが多い.本研究では,FTRの概念を通じて,医療技術の進歩(低侵襲化)に相応しい理学療法のストラテジーの提唱を試みた.

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© 2010 日本理学療法士協会
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