抄録
【目的】我々はー30度頭低位から+90度立位の間の体位変化に伴う呼吸筋、Chest Wallメカニクスを検討し、その結果に基づき体位の呼吸理学療法への応用を検討してきた。昨年本学会では小角度の頭低位体位での呼吸がabdominal-pad法よりの横隔膜筋力の強化法として有用であることを報告した。一方0度姿勢から90度立位の間に安静時換気量は変化し、胸、腹壁の関与度も大きく変化する。それに伴い横隔膜と始めとする呼吸器へ肺重力、腹部重力の不可方向の変化より呼吸筋の換気効率も変わってくる。臨床的にも頭高位は人工呼吸器関連肺炎の予防等で利用されているが、小角度姿勢変化での呼吸理学療法への応用の観点から検討した報告は少ない。今回臨床的に応用可能な0度から30度の小角度頭高位体位変化の呼吸理学療法への応用を検討した。
【方法】対象は、本研究の趣旨に賛同し承諾した健常成人。ティルトテーブルにて臥位姿勢(0°)から頭高位(30°)まで角度変化させた。測定角度は、臥位・0°、10°、20°、30°とした。各角度で換気諸量をニューモタコメーター(Flow VT)にて計測した。同時にChest wall機能として、胸腹部に装着したレスピトレースで胸壁、腹壁の変化量(Mrc, Mab)を計測し、アイソボリューム法でMrcとMabを合わせた後、既知のvolume で更正しrib-cage volume、abdominal volume(以下Vrc、Vab)として算出した。VrcとVabの総和はChest wall volume(以下 Vcw)として算出され換気量に相当する。体腔内圧変化は、鼻腔より挿入した食道バルーンカテーテルを食道に留置して胸腔内圧(Pes)を、同時に胃バルーンカテーテルを胃内に留置し測定して腹腔内圧(Pga)を測定した。両者の差圧から経横隔膜圧(Pdi)を測定した。すべての測定パラメータはチャートレコーダーに記録し、またVrcとVabをオシロスコープ上にX,Y座標で描画してKonno-Mead diagramとして解析した。
【説明と同意】測定に際して、本研究の目的と測定内容を被験者に説明し書面にて同意を得て行った。
【結果】0度から30度頭高位の姿勢変化にともない一回換気量は漸減し、Pdiも減少するが横隔膜の換気効率はむしろ増加した。また肺気量としてのFRCレベルは約20%肺活量分の増加を認めた。Chest wallは0°から30°の姿勢の角度変化、腹壁優位から胸壁優位の呼吸パターンへの変化を認めた。またVrcのFRCの推移は頭高位に従い漸減して呼気側へシフトしたが、10度から20度の間の変化が最大でのその後は小さかった。一方VabのFRCは頭高位に従い漸増して吸気側へシフトしたが、その変化度も10度から20度が大きかった。
【考察】臥位姿勢(0度)より頭高位(30度)までの姿勢変化が呼吸メカニクスへの影響を検討した。VcwのFRCは、吸気側にシフトした。この気量位の変化は、人工呼吸器によるPEEPと同様の効果としてとらえる事が出来る。FRCが高くなると閉鎖肺胞を開いて肺を拡張させ閉鎖末梢気道も開く。これによりガス交換は改善し、また排痰などの肺理学療法施行時には相乗的な効果も期待できる。Chest wall configurationより、頭高位への姿勢変化にともなってVrcは呼気側にシフトしVabは吸気側にシフトしことは横隔膜に近い下部肺野の肺底部の拡張が起きたと思われる。このことは下部肺野に病変がある患者の換気血流不均等の是正、排痰促進にもつながるものと思われる。FRCのシフトは、0度より20度までが大きく変化することより、臨床的に使用可能な20度位まで姿勢変化でもこれら呼吸にたいするメカニクス上のメリットが期待されることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】日常臨床上で、呼吸における体位の管理は重要なことは周知である。今回は、臥位より頭高位に10°ごとに変化させ30°までの小角度の姿勢変化での呼吸に対する影響を検討した。これらの小角度変化でも呼吸メカニクスへ影響を及ぼしこれら変化を知ることは、呼吸管理、呼吸理学療法場面での姿勢管理、呼吸療法施行姿勢等に有益と考える。