理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-234
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一般演題(ポスター)
広範脳内出血より呼吸器合併症を予測された一症例
呼吸機能と姿勢筋緊張の関連性に着目して
石田 文香森 憲一宇渡 竜太郎
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抄録
【目的】急性期における重篤な脳血管疾患後の呼吸器合併症は,臨床上よく認められ,覚醒レベルの低下に伴い上気道閉塞,誤嚥性肺炎といった呼吸障害を併発する確率は高く認められる.脳血管疾患に対する理学療法は,長期臥床による廃用を予防し早期からのADL向上,社会復帰を図る事として重要視されている.しかし,呼吸器合併症を併発した場合,運動機能の改善が困難となるだけでなく,生命予後にも悪影響を及ぼす.脳血管疾患の呼吸障害は,障害像が複雑化し理学療法効果の判定は難しく,また,それらの症例報告も多いとは言えない.今回, 左中大脳動脈領域の広範脳内出血を呈し,左半球内の浮腫が増強し脳室正中偏位が生じた一症例を経験した.頭蓋内圧減圧術の適応となったが,家人の希望により手術は実施せず,内科的治療とリハビリテーションの対応となった.Glasgow Coma Scale (以下,GCS)E1 V1 M1, Stroke Impairment Assessment Set-Motor(以下,SIAS-M) 0/25,頭頚部アライメントは,下顎下制位,開口状態が持続して舌根沈下による上気道閉塞,誤嚥性肺炎の呼吸器合併症が予測される症例であった.シングルケーススタディーを通じて,脳血管疾患後の呼吸障害に対しての理学療法効果について検討しここに報告する.
【方法】シングルケーススタディーによる症例報告からの効果判定を方法とする.量的評価としてGCS,SIAS,SpO2,胸郭拡張差,換気回数,また質的評価として,呼吸様式,姿勢筋緊張,頭頚部アライメントを効果判定に用いた.
【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき患者,家人に症例報告より理学療法の効果判定,必要性を第45回日本理学療法学術大会にて報告する旨を説明し同意を得たのでここに報告する.
【結果】平成21年7月2日,理学・作業療法開始.開始時,GCS E1 V1 M1,SIAS-M 0/25, SpO299%(酸素 2L投与下),換気回数20回/分,血液ガスデータ PaCO2 52.0,PaO2 94.0,pH 7.32.胸郭拡張差(腋窩-剣状突起-第10肋骨)2.1-1.6-1.4cm,呼吸様式はAbdominal paradox Patternであり上部胸郭優位の呼吸様式であった.姿勢筋緊張では,非麻痺側優位に僧帽筋上部線維,肩甲挙筋の高緊張,麻痺側優位に斜角筋群,胸鎖乳突筋が高緊張を呈していた.頭頚部アライメントは頚椎伸展位,下顎下制位,両肩甲骨挙上位であり,麻痺側体幹を含む上下肢近位部は弛緩状態であった.また嚥下反射は認めなかった.治療としては,病棟との側臥位管理の徹底により換気能・気道クリアランスの改善を図り,咽頭への重力による唾液の垂れ込みを防止し,段階的な離床を進めた.頭頚部のアライメント調整を行い,坐位にて支持面と姿勢筋緊張を整える治療的誘導を試みた.また,覚醒レベルの改善を目的に,高坐位姿勢での治療を実施した.同年7月27日,GCS E4 V3 M6,SIAS-M 0/25, SpO2 99%(酸素 1L投与下),換気回数18回/分.血液ガスデータはPaCO2 45.0 ,PaO2 91.0 ,pH 7.41,また,胸部レントゲン上,肺野の浸潤影は認められなかった.胸郭拡張差(腋窩-剣状突起-第10肋骨)2.0-1.2-1.7cm. 呼吸様式のAbdominal paradox Patternは軽減を認め,下部胸郭の運動性を認めた.姿勢筋緊張は,非麻痺側僧帽筋下行部線維,肩甲挙筋,麻痺側斜角筋群,胸鎖乳突筋の高緊張に軽減を認め,左右差も減少した.頭頚部アライメントでは,頚椎伸展位,下顎下制位,両肩甲骨挙上位が軽減し閉口位を認め,嚥下反射も認めた.同日,姿勢筋緊張,意識レベル改善に伴い車椅子坐位までの獲得に至った.
【考察】広範脳内出血に限らず,脳血管疾患の急性期においては意識レベルが低下し,背臥位での管理では舌根沈下による上気道閉塞,重力の影響を受け,唾液が咽頭へ垂れ込み,誤嚥性肺炎を呈しやすい.また,急性期より上部胸郭優位の呼吸様式となり,回復期に移行するにあたり胸郭は吸気位で固定されることが認められる.本症例は,これらの障害像を呈する事が予測され,急性期より呼吸機能と姿勢筋緊張に着目して,治療を展開する必要があった.側臥位管理の徹底による気道クリアランスの維持・改善,高坐位姿勢にて支持面を狭くすることにより姿勢筋緊張,意識レベルの改善が図れ,呼吸器合併症の予防が出来たと考えられる.
【理学療法学研究としての意義】脳血管疾患に対し早期からの介入を行う理学療法士は,このような重症例を量的・質的評価により効果判定を行い,そのデータを蓄積し,理学療法のあり方を再考することが必要であると考えられる.
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© 2010 日本理学療法士協会
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