理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-249
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一般演題(ポスター)
膵臓癌患者に対する理学療法士介入後の術前呼吸機能の変化について
川西 誠川井 学小池 有美上西 啓裕花井 麻美森木 貴司杉野 亮人川崎 真嗣谷 眞至山上 裕機田島 文博
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抄録
【目的】
膵臓癌に対する手術件数は年々増加傾向にある.膵臓癌手術は最も内度が高く侵襲の大きな開腹術の一つであり,術後下側肺障害を併発し肺炎や無気肺などの重篤な合併症が時々発生する.また一秒率低下は,術後無気肺や肺炎リスクを増大させるといわれている.当院ではスパイロメトリーを用いた呼吸機能検査を外来受診時と術直前に行っている.また同時に外来受診時から,理学療法士が自宅での自主トレーニングとして,有酸素運動励行と術前呼吸指導を行っている.今回その効果を確認するため,外来での理学療法開始時と術直前に行った呼吸機能の変化について検討したので報告する.
【方法】
対象は膵臓癌と診断され,開腹による癌切除術施行予定の29例(男性18例,女性11例).年齢は46~82歳(平均70.4±10.3歳)であった.症例は全て当院消化器外科に外来受診し,手術適応と判断された後すぐにリハビリテーション科に紹介されている.術前は,トレーニングと術後離床の意義を十分に説明した上で,外来から入院に切り替わっても腹式呼吸や排痰訓練,ハッフィングなどの呼吸指導とともにエルゴメーターや階段昇降,ウォーキング等を継続して指導した.呼吸機能検査はスパイロメトリーを用いて%VC,1秒率,最大呼気流量(以下PEFR)を測定した.
【説明と同意】
倫理委員会の承認を得た研究の一環として,対象者には医師および理学療法士が事前に十分に説明し,同意を得た.
【結果】
%VCの平均値は開始時105.7±19.9%,術直前106.8±18.1%と変化を認めなかった。1秒率は開始時70.2±8.8%,術直前73.5±7.0%と有意な増加を認めた(p=0.008).PEFRは開始時5.6±1.9L/s,術直前6.2±1.7L/sと有意な増加を認めた(p=0.0001).
【考察】
周術期における呼吸理学療法の最も大きな目的は,術後肺合併症を予防することである.そのためには術後早期から離床し喀痰を促すことは不可欠である.しかし術後からの介入では,創部の痛みや離床への理解が乏しいことも影響し,十分な呼吸や喀痰困難なことが多い.肺癌や食道癌患者に対する術前呼吸理学療法の有用性は明らかとなっているが,膵臓癌においては不明である.今回,理学療法士が介入した膵臓癌症例において,術直前の1秒率と喀痰の可否を予測する指標とされるPEFRは有意な増加を認めた.PEFR低下は術後の肺合併症リスクを増加させるともいわれ,今回術前から積極的に呼吸指導や運動指導を行ったことが呼吸機能向上につながったと考える.以上の結果から,膵臓癌患者においても術前からの積極的な呼吸理学療法プログラム導入の必要性は示唆されたといえる.
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,はじめて膵臓癌手術患者において理学療法士の術前介入の有用性を明らかにした.
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© 2010 日本理学療法士協会
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