抄録
【目的】高齢者における外出行動と身体機能・ADLの関連において、これまでの縦断研究により外出頻度の低い者が身体機能・ADL障害を高率に発生することが報告されている。高齢者の機能保持のために、外出頻度の低い高齢者は、その頻度が向上することが重要であるが、外出頻度が経時的に向上した高齢者の特徴は十分明らかとなっていない。そこで本研究では、地域在住高齢者を対象として、2年後に外出頻度が向上した高齢者の要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】2002年と2004年に東京都板橋区にて高齢者健診を受診した地域在住高齢者1136名(男性478名、女性658名、平均年齢75.6 ± 3.9歳)を対象とした。普段の外出状況は4件法で「1日1回以上」、「2~3日に1回程度」、「1週間に1回程度」、「ほとんど外出しない」の選択肢から最も近い状態を聴取した。全対象者のうち2002年に1日1回以上の外出をしていなかったが、2004年には1日1回以上の外出をするようになった者を外出向上群、外出頻度が変わらなかった者もしくは低下した者を外出維持低下群とした。外出行動の変化に関連する独立した関連因子を明らかとするために、外出行動の変化(外出維持低下群/外出向上群)を従属変数とし、独立変数には2002年の運動機能(膝伸展筋力、5m通常歩行速度、Functional Reach)、認知機能低下の有無(無し;Mini-Mental State Examination24点以上/有り;23点以下)、疼痛の有無、定期的な運動習慣の有無、転倒恐怖感の有無を強制投入した多重ロジスティック回帰分析にてオッズ比を求めた。また統計解析はPASW Statistics17を用いて行い、危険率5%未満を有意水準とした。
【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき計画され、東京都健康長寿医療センター研究所の倫理審査委員会の承認を受けて実施した。対象者には研究の主旨と説明を行い、書面にて同意を得た。
【結果】2002年に1日1回以上の外出をしていた者は923名(81.3%)であった。1日1回以上の外出をしていなかった者は213名であり、そのうち2004年に外出向上群に変化した者は106名(49.8名)、外出維持低下群は107名(50.2%)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果、5m通常歩行速度(オッズ比; 4.15 , 95%信頼区間; 1.03-16.7, p =0.046)のみが外出変化と有意な関連を示した。
【考察】地域在住高齢者を対象とした本研究ではベースライン時に毎日外出をしていた者は全体の81.3%であり良好な外出状況であったといえるものの、18.7%は毎日外出をしていなかった。ただしその2年後には毎日外出するようになった対象者が約半数存在し、加齢にもかかわらず活動的な行動へ変化する高齢者が多いことが明らかとなった。これは、高齢者に対する外出支援のための取り組みが有効となる可能性を示唆しており、外出頻度が向上した高齢者の特徴を明らかとすることで具体的な対策を講じることができる。多重ロジスティック回帰分析の結果、外出頻度の向上と関連したのは歩行速度のみであった。これは、速く歩けることが高齢者の外出行動を促進する要素であることを示しており、毎日外出していない高齢者に対して運動介入を検討する必要があることを示唆している。また、外出頻度の向上を目指した運動介入の実施に際しては、歩行速度の向上をはかるためのトレーニングを取り入れる必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】高齢者の外出頻度の向上は、身体活動を向上するために重要な役割をもつ。本研究は、縦断的な外出行動の調査から、外出行動が向上した高齢者に焦点を絞った分析を行った点が独創的である。結果として、歩行速度が唯一の独立した要因として抽出されたことは、高齢者に対する運動介入の必要性を強調させる結果となり、高齢者に対する理学療法の重要性を再確認する結論となった。今後、高齢者の健康行動を促進するための介入研究をすすめる上で、運動介入の根拠を示す結果を示した点において、本研究の意義は高いと考えられる。