理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-201
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一般演題(口述)
介護予防通所介護利用中の後期高齢者における介護度変化と身体機能の関係
平野 真貴子高柳 公司大石 賢有村 圭司
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抄録
【目的】当法人の通所介護施設では理学療法士を2名配置し、物理療法、マシントレーニング、集団体操、個別リハビリテーション等を提供している。なかでも介護予防への取り組みとして、要支援者を対象に運動機能向上プログラムを実施しているが、比較的長期にわたり継続利用している要支援後期高齢者が多い現状である。そこで、要支援後期高齢者の介護度の変化と身体機能の関係について比較・検討したので報告する。

【方法】対象は、通所介護を利用している要支援後期高齢者のうち、認知症老人の生活自立度判定基準においてI、IIに該当し、利用期間中に変化のなかった者28名(男性7名、女性21名、平均年齢84.2±4.6歳)である。対象者を介護度更新により要支援1・2を維持している者(以下、介護度維持群とする)20名(男性4名、女性16名)、介護度更新により要支援から要介護となった者(以下、介護度低下群とする)8名(男性3名、女性5名)の2群に分け、次の項目について調査・測定し比較・検討した。(1)年齢、(2)性別、(3)更新による介護度の変化、(4)利用期間、利用開始時と更新直前の(5)握力、(6)膝伸展筋力体重比、(7)開眼片脚立位保持時間、(8)通常5m歩行時間、(9)Timed up & go test(以下TUGテスト)

【説明と同意】全ての対象者に対し、事前に口頭にて本研究の目的と内容を説明し、同意を得た。

【結果】平均年齢は、介護度維持群84.2±5.1歳、介護度低下群84.3±3.3歳と、両群間で差はなかった。平均利用期間は、介護度維持群では 32.9±10.0ヶ月、介護度低下群では 21.9±12.0ヶ月と、介護度低下群が介護度維持群と比べると比較的早期に介護度が低下していた。介護度維持群では膝伸展筋力体重比において利用開始時25.4±10.5%、更新前20.2±7.0%と低下する傾向(p=0.057)があった。介護度低下群では、開眼片脚立位保持時間において利用開始時11.1±6.3秒、更新前3.2±2.0秒と有意に低下し(p<0.05)、TUGテストにおいて利用開始時18.3±12.7秒、更新前20.9±13.0秒と低下する傾向があった(p=0.069)。その他の項目では有意差は見られなかった。

【考察】介護度低下群において、開眼片脚立位保持時間が有意に低下し、TUGテストで低下する傾向があった。一定の肢位を保持し続ける静止的姿勢保持能力の指標である開眼片脚立位保持時間、支持基底面を変化させながら一定の課題を随意的に行うパフォーマンスに基づくバランス能力の評価であるTUGテストで低下していることより、バランス能力の低下が示唆され、バランス能力の低下が介護度低下に影響を与えていると考えられた。バランス能力は、平衡性、敏捷性、柔軟性、瞬発性、持久性などの要素を統合した能力としてとらえられ、視覚、前庭、体性感覚などの感覚や、筋力などに影響を受けると言われている。静的バランスに膝伸展筋が関与しているとの報告があるが、今回の研究では、膝伸展筋力体重比に有意な変化がないもののバランス能力が低下していた。これは、膝伸展筋力は比較的維持されてはいるが、他の因子の影響によりバランス能力が低下したものと考えられる。加齢により身体機能は衰えるが、とりわけバランス能力の低下が著しいと言われることからも、定期的な評価を行い、バランス能力の低下を早期に認識し、関連する筋力を含めたバランス能力へのアプローチを行うことが介護予防へ繋がると思われる。

【理学療法学研究としての意義】介護予防10ヵ年戦略では、高齢者の生活機能低下を予防するとともに、要介護となる主な原因である「骨折」、「脳卒中」、「認知症」の効果的な介護予防対策を推進することとし、筋骨格系疾患等を原因とする生活機能低下を主徴とする軽度者と、脳卒中や認知症を原因とする重度者の存在に留意して対応することとされている。実際、要支援となる原因では加齢による衰弱、関節疾患、骨折が多数を占めている現状である。通所介護施設では、通所リハビリテーション施設に比べて、要支援者の利用の割合が多いことから、介護予防の視点から考えても、通所介護施設における理学療法士の担うべき役割は大きいと考えられる。
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© 2010 日本理学療法士協会
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