抄録
【目的】
認知症対応型共同生活介護(以下:グループホーム)は平成2年頃から、北欧での「人間の尊厳を大切にする」という取り組みにならい、平成9年度に認知症に対応する老人共同生活援助事業として制度化された。グループホーム運営における人員基準として、介護従事者・計画作成担当者・管理者が必要である。その必要人員の中には、リハビリテーション(以下:リハビリ)を行う人員が配置されていない。そのため、施設では、機能低下を来たした高齢者に対してのリハビリが実施出来ない事例も報告されている。また訪問リハビリにおいても、医療保険制度・介護保険制度ともにグループホームでは報酬上算定に制約がある。そこで今回、グループホーム施設長に対し、リハビリに関するアンケート調査(質問紙法)を実施して、現状把握と今後の課題抽出を目的とした。
【方法】
対象は都内にあるグループホーム40施設とした。アンケートの配布は郵送で行い、回収も郵送で行った。アンケート調査票の主な内容は、1.回答者の基本属性、2.入居者の男女比・認知症高齢者自立度・要介護度・入居者のリハビリ状況、3.理学療法の必要性に関する11項目の調査を実施した。回答方法は多肢選択法や4段階のリッカート法、自由記載を併用した。
【説明と同意】
院内の承認を得て実施した。調査対象者には、本調査研究の主旨を説明した紙を同封し、「アンケート用紙をご返送いただいたことをもって、本調査に同意したものとする。」と明記し郵送を行った。
【結果】
アンケート調査では、40施設中16施設から回答が得られた(有効回答率40%)。1.施設長は男性4割、女性6割であった。施設長年齢は40歳代が最も多かった(44%)。
2.入居者の男女比は女性が8割以上であった。認知症高齢者自立度はIII~IVの段階が最も多かった(56%)。要介護度は要介護3が多かった(93%)。入居者に対して困っていることは、リッカート法(4:とてもある、3:ややある、2:あまりない、1:全く無い)を用いた。身体機能で困ったことがあるかは平均3.5点。ADLの方法で困ったことがあるかは平均3.1点。介助方法で困ったことがあるかは平均3.1点。リハビリで困ったことがあるかは平均3点であった。福祉用具・装具で困ったことがあるかは平均点2.7点。現在入居者に対し行っているリハビリは、散歩(94%)、体操(81%)、生活リハビリ(75%)、レクリエーション(69%)、その他では区や地域主催の介護予防行事に参加であった。
3.グループホームでの理学療法の必要性を調査した。理学療法が必要という施設13施設(82%)、必要で無いは1施設(6%)、常に必要ではないが時々必要は2施設(12%)であった。グループホームでの理学療法の役割として、機能回復訓練(81%)、介助方法のアドバイス(63%)、リハビリプログラム作成(44%)、身体機能評価(38%)、福祉用具選定(38%)であった。理学療法士の訪問リハビリが可能であれば利用したい(88%)、利用したくない(0%)、どちらともいえない(12%)であった。
【考察】
グループホームとは、自宅にいる延長上の生活であり、看護師もおらず、日常生活を営む場と位置づけられている。ただ、ここ最近は身体・認知も重症化、パーキンソン病他、医療が少しずつ必要な方も入居している状況がある。今回の調査でも、認知症高齢者自立度ではIII~IVが一番多く、重症化していることが明らかになった。このような状態下でもリハビリといえば、体操・散歩・生活リハビリといったものが主であり、個別的な関わりが出来ていない。自由記載において「ホーム内での生活リハビリでは限界があり、理学療法士がいれば、相談がすぐに出来、対応が出来るため必要。」との声も聞かれた。人員的な問題や知識・技術の問題など、多職種で連携してケアを行うことが求められてきている。
さらに理学療法に求められていることは、入居者の機能回復ということも明らかになった。認知症に対しての治療効果を問うことは今のところ難しいが、筋肉・骨関節・呼吸循環などに刺激を与え、健康状態の維持・改善を図ることの出来る理学療法士は、認知症ケアにとって重要である。
これからのグループホームでのあり方として、認知症になっても住み慣れた町で、その人らしく生活を続けることができ、最期を看取るためには、理学療法の役割は大きい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では認知症高齢者が増加していく中、理学療法士への期待も高いことが示唆された。今後、居住系施設入居者等に対しての個別リハビリが必須になると思われる。施設・在宅での理学療法報告は多いが、居住系施設では理学療法を十分に提供できていないため、報告はまだまだ少ない。居住系施設での理学療法効果を、今後も研究報告することが必要である。